第8話 死相

 もうだいぶ前に友人から聞いた話である。


 寺の息子のTさんは霊感というのとはちょっと違ったものだが、所謂死相というものが見える人だった。


 最初にそれが見えたのは子供の時。相手は祖父の友人だった。


 祖父の家に行った時、たまたま来ていたそのおじさんの顔がまるで骸骨のようだった。それから間もなくしてそのおじさんは風邪から肺炎をこじらせて、あっさりと逝ってしまったそうだ。


 小学校時代の友人もある日骸骨の様な顔で登校してきた。周りは何の反応も示さなかったがTさんには死相がはっきり見えたという。その子も交通事故でほどなくして亡くなった。


 中学の時には担任がやはりある時骸骨の様な顔で学校に来て「先生は今重い病気にかかっています」と話したのを聞いて、これはやっぱり死にゆく人の顔なんだなと思ったそうである。


 それはTさんが高校時代の出来事である。五月の連休も過ぎたある時、ちょっとした私用で電車に乗った。その電車が異様だった。

 

 近くで開催していた陶器関係のイベントで、その日の電車は超満員だった。そしてその電車に乗った人間が皆骸骨だったのだ。ぎっしりとひしめく骸骨顔の人、人、人。Tさんも背筋が冷えたと言う。


 これはいけないと思いTさんはすぐに電車を降りた。ほどなく電車同士が正面衝突しTさんが乗っていた車両はぐしゃぐしゃにつぶれていたという。大惨事として歴史に残るS県の電車事故であった。


 死相が見えたことで助かったんですか。と聞くと「その時はね」とTさん。


「でも、最近見えるんだ。鏡に写った自分の顔に……死相が」と悲しそうにTさんは言った。


 この死相、普通の人にも分かる時があるのだと言う。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る