08「破顔一笑 -はがんいっしょうー」

(もう、来るはず)


 急な転勤でプロポーズをする覚悟もなく、一年が過ぎようとしていた。

 もちろん、うざがられない程度に電話もメールも欠かさず、絵葉書も月に一度出していた。


 同棲していた頃、家に帰ると笑顔の彼女が夕食を用意してくれていた。

 帰宅しても明かりのない部屋、インスタントばかりの食生活の、なんてむなしかったことか。


 俺はスマホをポケットから取り出し、一時間前に撮った電光掲示板と、現在進行形の掲示板を見比べた。遅れも、運休も発生していないとわかる。

 何も問題がなければ、あと十分程で改札から彼女が出てくるはずだ。直接会うのは一年ぶりで、三連休を一緒に過ごす予定。


(っ、来た!)


 大きなキャリーケースを引っ張って、彼女が出てきた。すぐに駆け寄り、指輪の箱を持ってひざまずく。

「俺と、結婚して下さい!!」

 突然のプロポーズ。彼女は驚いたのか、涙を流しながら微笑んだ。


破顔一笑はがんいっしょう:顔をほころばせて笑うこと。機嫌がよくなること。にっこりと笑うこと』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る