155:理解を深めましょう




「私はね。確かに光の叔父という立場だけど、教職者でもある。だからね、ひいきをして一人の生徒を追い詰めることなんて、絶対にありえないんだよ」


「……はい」


「今回のことは私の力不足もある。しかし、苦しかった時に、頼ってくれなかったのは本当に悲しい」


「……すみません」


 怒りのままに叫ばれるのも辛いけど、冷静に詰め寄られるのも胸が痛い。

 しかも神楽坂さんは微笑みを浮かべて話してくるから、余計に怖い。


「まあ、でも学園に戻ってきてくれて良かった。もしも帰ってこなかったら、一之宮家に連絡するところだったからね」


「あ、はい。ありがとうございます」


 まだ連絡していなかったんだ。

 感謝をする前にそう思ったけど、そちらの方がありがたいので、知らされなくて助かった。


「それで、今、この学園は騒がしい状況になっているよね。ほとんどの生徒は帝君のことを信じているみたいだけど、一部の生徒は、光の言うことを信じている。その混乱を、どうおさめる?」


 先の問題は、そちらか。

 俺がいなくなったことを知っているのは、ここにいる人達だけだけど、だからといって終わりというわけではない。

 学園に巻き起こった混乱を、なんとか鎮めなければならないのだ。


 多分、こういう風に聞いてきたということは、俺の手腕を試しているのだろう。

 この混乱を、俺がどう対処するのか。

 それを任せようとしているわけだ。


「なんとかしますよ。安心してください」


 任されたのであれば、その期待に応えなくては。

 俺は丁寧な口調ではあるが、俺様な表情で笑う。


 その表情に対して、転入生が「久しぶりの俺様格好いい」と呟いていたけど、聞こえないふりをしておいた。


「それは心強い。お手並み拝見といこうか」


 言葉とは裏腹に、神楽坂さんの雰囲気は柔らかなものだった。




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




 さて、完全復活した俺なのだが、生徒達の誤解をどう解くべきか。

 色々と方法はあるけど、どうせなら派手にやりたい。


 華々しく、みんなの目を一発で覚ますような、そんな面白い作戦。

 ものすごくハードルが上がっているが、景気よくやらないと、この気持ちはスッキリしてくれない。


「さーて、どうしようかな」


 俺は生徒会室で、腕を組んで考える。

 他のみんなは後処理に追われていて、今は誰もいない。


 もう、誰もいないことに寂しさを感じない。

 俺は生徒会室で一人にも関わらず笑うと、いいアイデアが閃いた。


「よし、善は急げだ」


 準備をしなくても大丈夫なので、俺は勢いよく立ち上がると、とある場所に向かった。





『あーあー、聞こえているか? 多分大丈夫だな』


 俺はマイクを軽く叩き、スイッチが入っているのを確認すると、咳払いをする。


『俺が誰なのか、みんな分かっているよな。授業中だけど、理事長の許可は得ているから、いったん中断して話を聞いてくれ』


 現在放送室をジャックしている俺は、手っ取り早い方法として、自分の考えを流すことにした。

 理事長に許可は得ているので、ジャックしたとは言い切れないかもしれないが。


『最近の俺について、色々と思うことがある人はいるだろう。生徒会室から出てこなかったことで、不審に感じたかもしれねえ』


 ここで話していても反応は分からないが、それはそれでやりやすい。


『俺は選ばれて、生徒会長になった。なったからには、中途半端なことはしたくねえ。この学園を頂点に導くために、何でもするつもりだ』


 俺の言葉を、ただの偽善と言われればそれまでだ。

 でも、きっとこの学園の生徒であれば大丈夫。


『生徒会の仕事を放棄するつもりはねえし、親衛隊とセフレになることなんて天と地がひっくり返ってもありえねえ』


 そんな根拠のない自信から、俺は話を続けた。


『お前達が選んだ俺を見くびるな。俺の顔だけで選んだだけじゃねえだろう。この学園の長たる人間として選んだはずだ。だから、俺もその期待に応える。裏切ることは絶対ねえ』


 俺様の発言としてはおかしいかもしれないけど、それでも伝えたかった。


『これからも、俺についてこい。後悔はさせねえから』


 もっと優しく言いたかったが、さすがにキャラを崩すのはまずい。


『話は以上だ。授業に戻れ』


 だから自己中心的な終わり方になったけど、大丈夫だろうか。

 少しだけ不安になるが、言ってしまったものはもう取り消せない。


 俺は背もたれによりかかり、目を閉じた。



 そしてその目を、すぐに開く。


「……は、はは」


 微かに耳に入ってくる、拍手の音。

 ここまで聞こえてくるということは、どれだけの人が拍手をしているのだろうか。


 俺は上を向き、自然とこぼれるような笑い声が出た。

 その頬を何かつたうものがあったけど、俺しかいないので気にしないことにした。




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




 こうして生徒達からの誤解も解け、転入生大人しくなり、俺の心配事は消えた








 かに思われた。

 でもそれは違った。


 生徒達とも分かり合うことが出来、その嬉しさを俺は、御手洗に伝えようとした。

 逸る気持ちを抑えて、電話をかけた俺の耳に入ってきたのは、


『おかけになった電話番号は現在使われておりません』


 そんな無機質なアナウンスだけだった。






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