55:本当の友達になれたかな?




 話し合いを終わらせたあと、泣くことすらも出来なくなった3人を先生に引き渡し、俺と圭は2人きりになった。


 顔を赤くさせながらチラチラとこちらを見てくる姿は、乙女かとツッコミたくなる。

 でも機嫌が直った証拠なので、とりあえず頭を撫でておいた。


「帝君、帝君」


「どうした? 圭?」


「んふふ、何でもない」


「そっか」


 そして先程から、何度も無意味に名前を呼んでいるのだが、そのたびに嬉しそうな顔をする。

 今までの分を取り戻したいという気持ちから、きっとこうしているのだろう。無視することは出来なかった。


 それに嬉しそうに笑う姿は、大型犬のようで可愛い。

 だから授業中だから早く帰ろうとも言えず、満足するまで相手をしている。


「あのねあのね」


「うん、どうした」


「俺、俺」


「時間はたっぷりあるから、落ち着いて話しな」


 少し幼くなっている圭は、何かを話そうとするが、興奮しすぎて上手く言葉に変換できていない。

 それなのに何かを話そうと必死になっているから、俺は落ち着かせる。


「う、うん。あのね、えっとね。ありがとう!」


 何の話をするのかと身構えていたので、お礼を言われて思考が停止する。

 お礼を言われるようなことをした覚えは、全くないのだが。


「俺と友達だって言ってくれて、嬉しかった。俺、わがまま言ってばっかりで、素直になれなくて。名前を呼んでもらえないのは当たり前だって、そう思っていた」


「そんなこと……」


「大丈夫。今は分かっているよ。あんなに必死な顔の帝を見るのは、初めてだったもん。ちゃんと友達だと思ってくれているって、馬鹿でも分かるよ」


 本当に嬉しそうに笑う圭を見て、ちゃんと名前で呼べて良かったと、なんだか俺は泣きそうになった。


「圭……」


 泣くわけにはいかないから、誤魔化すように名前を呼べば、俺の頬に手を当てて顔を近づけてくる。


「俺達、友達だよね?」


「うん、友達だよ!」


 その顔の良さに緊張するけど、きちんと答えを返すのを優先して、俺は力強く頷いた。


「ありがと。嬉しい」


 可愛く笑った圭の顔が、さらに近づいてくる。

 俺はそれを眺めて動けずにいた。

 でも何かを感じて、反射的に顔を逸らす。


 すぐに頬に柔らかい感触。

 さすがにこういう状況が何回も続けば、キスをされかけていたのだと分かる。


「……ざーんねん」


 唇が離れると、心の底から残念そうに圭は言った。


「まあ、ここはそのうちまたね」


 そして唇に指が触れて、やわやわとつつかれた。

 その顔があまりにも甘くて、俺は視線をそらす。


「まあ、少しは気にしてくれているみたいだから、今は我慢するよ」


 唇へのキスは逃れたけど、あまりのピンク色の雰囲気に、俺は顔が熱くなる。


「さ、させないから……たぶん」


「ふふ、そっか」


 強く拒否しきれなくて、笑われてしまった。

 俺は顔を逸らし、そして視界に時計が入る。


「わ、もうこんな時間! もう授業が始まっているんだよ!」


「え、そうなの? もしかして、俺のためにさぼってくれたの?」


「まあ、結果的にはそうだけど。でも桐生院先生に伝わっているから、怒られはしないと思うよ。だから気にしないで」


 すでに授業は、もう終わりに近づいていた。

 さすがにそろそろ帰らないと、誰かが探しに来てしまうかもしれない。


「そっか。俺のために。わざわざ探しに来てくれたんだね。ありがとう」


「本当、気にしないで。それじゃあ、帰ろうか」


 圭も落ち着き、教室に戻れそうだ。

 俺は立ち上がると、手を差し伸べた。


 その手をしっかりと握ってくれた圭と、2人で並んで教室へと戻る。



 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




「お、上手くいったのか」


 まだ授業中だったので、静かに後ろの扉から入ったのだけど、目ざとい桐生院先生に気が付かれてしまった。


「えっと、おかげさまで。授業をちゃんと受けられなくてごめんなさい」


「あ、俺が悪かったから、帝君のことは責めないでください」


 別に怒っているわけじゃないのだが、圭が焦って俺をかばってくれる。


「おーおー。だいぶ仲良くなったみたいだな。別に怒っていないから、安心しろ。ちゃんと説明は受けたから。今回だけは特別な」


「ありがとうございます。こんなことは二度と起こさないようにします」


「俺も、ごめんなさい」


「いいのいいの。仲良くなったから安心した。最近、元気なかったからな。ここにいる全員、今日のことは内密にしろよ。今日は誰もさぼっていない。いいな?」


 桐生院先生の言葉に、クラスメイト全員が元気よく返事をする。

 なんて優しいクラスメイトだろうか。

 まだ一カ月ほどしか経っていないけど、上手く関係を築けていたようだ。


 俺は胸がぽかぽかと温かくなるのを感じながら、自然と笑みがこぼれた。


「みんな、ありがとう」


 心からの言葉。

 何故か、ほぼ全員に顔をそらされる。


「え、なんで?」


「帝……その顔は、耐性の無い生徒には毒だ。さすがに直視出来ない。伊佐木、担任には話を通してあるから、そろそろ自分のクラスに帰れ」


「は、はあ……」


 桐生院先生も顔をそらしていて、物凄く悲しくなった。


「み、かど。俺は平気だから。俺の前では、たくさん笑ってもいいんだよ!」


 未だに手を握っていた圭が、顔を真っ赤にさせながら、俺と目を合わせてくれる。

 それだけでも嬉しくて、俺は勢いよく抱き着いた。


「ありがとう!」


「「「「あー!」」」」


 その瞬間、美羽達の叫び声が教室を包み込んだ。





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