BL王道学園でリコールされないために
瀬川
5歳編
01:最悪のタイミングで、最悪の事実を思いだす
「おかあさんが……?」
お父さんの淡々とした声に、俺は衝撃と共に気を失った。
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ふわふわとした世界の中、俺は今の自分とは全く違う記憶を思い出していた。
いわゆる前世の記憶。
俺、いや僕は、一言で説明すると腐男子だった。
男性同士の恋愛をテーマとした物語が好きで、暇さえあれば読み漁っていたのだ。
僕がこの趣味に目覚めたころは、そういった趣味の人にも世間が寛大で、書店にはそれ専用のコーナーだってあった。
しかしレジでそう言った本を出すのにためらいがあった僕は、インターネットのサイトで同じ趣味の人が書いた物語をもっぱら読んで楽しんでいた。
その中でも特にはまっていたのが、王道学園をテーマとした小説だった。
舞台は山奥にある全寮制の男子高校。
閉鎖的な場所のため、男同士の恋愛が当たり前。
生徒の大半が金持ちであり、その度合いによって学校内でのスクールカーストが決まっていく。
更には容姿も重要な意味を持っていて、抱きたい抱かれたいランキングという狂ったランキングがあり、それによって生徒会役員が選ばれるという仕組み。
生徒会、風紀、その二つの役員は教師をしのぐほどの権力を持ち、学園内で王様同然。
人気のある生徒には親衛隊が付き、抜け駆けをする生徒がいたら制裁を行い退学に追い込む。
そんな現実にあるわけの無い、完全におかしい設定だが、それがまた良かったのだ。
初めて、その設定を読んだときは、思いついた人は天才だと本気で考えた。
僕が前世で、どうして死んだのかは記憶になかった。
きっと良い死に方ではなかっただろうから、覚えていない方が正解なのかもしれない。
それよりも、今の状況の方が問題である。
「……ここは、
ふわふわした世界から、ぼんやりと目を覚まし、俺はベッドの中で呟いた。
前世では僕と言っていたが、今は俺の方が言いやすい。
昔の記憶と、今まで生きていた俺の記憶が混ざり合って、ものすごく混乱している。
でも、混乱している場合じゃない。
この状況をきちんと理解していないと、これから先、恐ろしい未来が待ち構えている。
「一旦整理をしよう」
俺は頭を押さえながら、ベッドの正面に置かれている大きな姿見を見た。
そこには、将来が期待出来そうな、利発で勝気な目をしている可愛らしい男の子が映っていた。
そして俺は知っている。
今は美少年のこの男の子は、将来とんでもないイケメンに進化することを。
それだけだったら、人生の勝ち組だと喜んでいられた。
しかし俺の頭の中で、一枚のイラストがこびりついて離れない。
情けなく涙と鼻水をたらし、ひざまずいて絶望の表情を浮かべている顔。
それは、13年後の俺の姿だった。
今から13年後、薔薇園学園の生徒会長、
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前世の俺が読んでいた王道学園の小説の中で、一番のお気に入りで何度も読んでいた物語。
タイトルは薔薇園学園物語。
生徒会、風紀が学園の王様をしている中で、ある日季節外れの転入生が来る。
その転入生は、もじゃもじゃの頭に、ビン底眼鏡、どこからどう考えてもお近づきになりたくないような容姿をしている。
しかし、その転入生は生徒会の役員から学園の人気者であるイケメンまで、次々と魅了していくのだ。
学園を案内するために出迎えた王子様系の副会長には、笑顔が胡散臭いと言い気に入られる。
寮で同じ部屋になった一匹狼の不良には、全く怯えなかったから気に入られる。
同じクラスになった爽やか運動部のエースには、話をしているうちに面白い性格だと言われて気に入られる。
セフレが大勢いる会計には、自分自身を大切にするべきだと言って気に入られる。
口下手で無口な書記には、無理して話すことは無いと言って気に入られる。
その他にも、ホストな見た目の担任や、実は伯父である学園の理事長、落ちこぼれクラスの番長、堅物風紀委員長など、様々な種類の人間を惚れさせる。
見た目のせいで、転入生は親衛隊に狙われてしまう。
しかし実は、転入生の格好は変装だった。
もじゃもじゃのかつらと眼鏡をとれば、現れるのは金髪碧眼の美少年。
しかも驚くべきことに、その正体は有名な不良の族潰し。
各々族をしている生徒会や風紀のメンバーとも街で出会ったことがあり、一目ぼれをされて、バレないために変装をしていたわけである。
変装がバレてからは親衛隊とも上手くいき、実はずっと助けてもらっていたキャラの一人と恋をしてハッピーエンドを迎える。
そんなありきたりな物語の中で、生徒会長である俺はどんな立ち位置なのかというと。
転入生に惚れて仕事を放棄し、リコールをされて実家からも勘当され、最後には行方知れずという最悪な結末を迎える、唯一のキャラだった。
作者は生徒会長に何か恨みでもあるのか、俺以外のキャラは仕事を放棄したって、好き勝手したって、転入生と和解して上手くいく。
俺だけが、惨めな人生になってしまうのだ。
小説を読んでいた時は、そういうものだと特に何も思っていなかった。
しかし当事者になった今、そんな悠長なことは言っていられない。
このままいけば13年後、俺は路頭に迷うことになる。
さすがにそれは嫌だ。
読んでいた小説の世界に生まれたことでさえ、運がいいとは思えない。
それなのに、待っているのは破滅。
どう考えたって、絶望しかない。
記憶の整理をした俺は、ベッドの上で頭を抱えながら、これからどうするべきか考え始めた。
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