02「夏のある日、騎士が約束の大樹の下で」

『十年後。お互いに決まった相手がいなかったら、ここで会いましょう。この木も大きくなっていると思うわ』


 病弱の幼馴染と交わした約束。騎士は今、彼女と植えた木……否、大樹の前に来ていた。


 照りつける暑い日差しを忘れるほどの大きな木陰。夏の虫の鳴き声も街の喧騒も、聞こえない。


 見上げても空が見えないほど茂った葉と、まるで蔓のように絡み合う複数の枝。

 くるりと幹の周りを歩き、街に続く道に人がいないことを確認して型を落とす。


 十年前の今日。騎士にとっては大切な約束をした。彼女以外に、生涯守りたいと思える相手はいない。


 道が見える位置で、少し剣を横にずらして幹に寄りかかる。それは些細な振動……の、はずだった。


「お願い!! 受け止めて!!」



 ――少々薄着の幼馴染が、木の上から落ちてきた。

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