第26話 正月太りを心配する
1月1日。三日月モモは母親と台所で悪戦苦闘していた。
「あらら、モモ大丈夫?」
「お母さん、大丈夫だって。いちいち口出さないでよ」
「だって、気になっちゃうから……」
「お母さん、骨折しているんだからおとなしくして!お母さんが隣にいるとできるものもできないよ」
「でもね……」
「おせちはお母さんもほめてくれたじゃない。任せてよ」
「わかったわよ……って、モモ醤油入れすぎだって!」
モモの母まさ子は腕にギブスを巻いていた。モモは骨折した母に代ってお雑煮を作っていた。
「お父さん、おもちは焼けた?」
モモがオーブンレンジの前にいる父三太に声をかける。
「おお、いい具合に焼けたぞ」
三太がオーブンレンジからいい具合に焼けた切りもちを大量に取り出した。モモは三太からもちを受け取ると、用意されたお椀の中にもちを入れる。
「お父さんは2個、お母さんは1個、あたしは3個と」
「ちょっと、あぁた入れすぎじゃないの?」
「いいじゃない、お母さん。よくがんばったで賞だよ」
「もうしょうがないわね」
「じゃ、みんな席について」
モモは餅の入ったお椀にお雑煮の具と汁を入れ、テーブルに並べた。
「ミッフィーおいで」
モモは居間でごろごろしていたペットのミッフィーを呼ぶと、ミッフィーはコロコロと転がり込んできた。三日月家の三人が席に座る。
「では、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします」
「お願いします。じゃ、食べましょ」
3人がおせちとお雑煮を食べ始めた。
「お、なかなかうまいぞ、モモ」
「本当?ありがとう、お父さん」
「お父さん、あたし骨折してるんだから、食べさせて。はい、あーん」
まさ子が三太に向けて、大きく口をあける。三太は数の子をまさ子の口へ優しく入れた。
「うん、おいしいわね。あたしの指導のおかげね。じゃもう一個、ダーリン。アーン」
三太はたし巻き卵をまさ子の口に入れた。その光景をみたモモは、
「二人ともいい年して、アツアツだね」
と少し呆れていた。
「モモ、いいじゃないの。こういう時しか甘えられないのよ。ほらダーリン、今度は昆布巻き。アーン」
「はいはい、わかりました。じゃ、あたしお雑煮おかわりするね」
「モモ、今度はもち2個にしなさいよ」
「……はい」
モモは渋々と餅を2個だけ入れて、お雑煮のおかわりをした。
城ヶ崎しげるの家では、家族だけでなく親戚も集まり、正月から宴会のように盛り上がっていた。
「リーダー、栗きんとんとかまぼこと佃煮とって」
「アキト姉さん、なんで俺にいうの?おやじのほうが近いじゃん。おやじに言ってよ」
「いいのよ、あぁたはパシリなんだからさっさと取りなさいよ」
「しげる、女性には優しくしなきゃだめだぞ」
「おやじまで……。わかったよ、とりますよ」
「ありがとう、リーダー。あ、あと黒豆もね」
「はいはい」
しげるは渋々おせちの具をとり、いとこのアキトに渡した。すると、玄関のチャイムが鳴った。
「しげちゃん、ちょっと出てくれない?」
「わかった、母さん」
しげるが玄関の扉を開けると、若い男女が立っていた。ルギーとあすか先生だ。
「おお、しげる。久しぶりだな」
「久しぶり、おじさん」
「あれ、リーダー?」
「あすか先生、明けましておめでとうございます。先生の旦那さんっておじさんだったんですね」
「うん。でもリーダーがこの人の甥っことはねぇ」
「俺もびっくりしましたよ。まさかあすか先生の旦那さんがおじさんだったなんて」
「そうね。じゃ、本年もよろしくお願いします」
「よろしくお願いします。じゃ、上がってください」
「はーい」
ルギーがさっさと家に入っていく。
「ルギー、靴くらいちゃんと揃えていきなさいよ!」
あすか先生は脱ぎ捨てられたルギーの靴を揃えてから家に上がった。
ルギーたちが来て、しばらく経ってからまた玄関のチャイムが鳴った。
「しげちゃん、ちょっと出てくれない?」
「わかった、母さん」
しげるが玄関の扉を開けると、若い男女が立っていた。ルギーと安永拳の叔母ナンシーだ。
「おお、しげる。久しぶりだな」
「久しぶり、おじさん」
「明けましておめでとうございます、リーダー君。今年もよろしくね」
「よろしくお願いします、ナンシーさん。今年は酔って俺にキスしたりしないでくださいよ」
「ふふふ、あのときはごめんね。もうしないから大丈夫だぁよ」
「気を付けてくださいよ、ナンシー姉さん」
「うるさい!」
ナンシーがルギーに蹴りを入れる。ルギーとナンシーが家に上がる。
親戚一同が集まった居間であすか先生、ナンシーそして「二人のルギー」が居合わせた。
「え?ルギーが二人?」
「あれ、ルギーとルギーが?」
あすか先生とナンシーは困惑している。
「貴之、お前来てたんだ」
ナンシーの隣にいるルギーが言う。
「おいっす、徹」
あすか先生の隣にいるルギーが言う。
「ちょっと、あぁたたち、ちゃんと説明しなさいよ!」
ナンシーが怒った。
「じゃじゃじゃあ、ここは俺が説明しますから」
しげるがナンシーをなだめる。
「まず、あすか先生の旦那さんの名前は『戸塚 貴之』さん。ナンシーさんのツレの名前は『戸塚 徹』さん。同じ顔なのは二人が双子だから。ていうか、なんで二人とも『ルギー』なの?」
しげるが逆に二人に質問した。
「もともと俺がウィーンに留学していたときのあだ名さ」
徹が答えた。
「そのあだ名が面白いから、俺は勝手に使ってる。めったに徹に会わないから、大丈夫だと思って」
貴之が答える。
「ていうか、あぁたなんで貴之君が使うのを止めないのよ」
「そうよ」
ナンシーとあすか先生が徹に言い寄る。
「いや……面白そうだから」
徹の回答に二人はうなだれた。
「もう、面倒くさいな。じゃ、貴之くん、君は今日から『ギルー』と名乗りなさい!」
ナンシーが強引に貴之のあだ名を変えた。
「それ、センスなさすぎ……」
徹がぼやいた。
「『ギルー』なんて、いや。だったら、『タック』がいい!」
あすか先生がさらに変えた。
「『タック』いいね。それに決定!」
ナンシーが賛同した。
「ありきたりだな……」
貴之がぼやく。
「もう決定だから。いいね、『タック』!」
「はい」
あすか先生が念を押した。
「じゃ、ひと段落したところで、みんなで初詣に行こう!」
「行こう行こう」
しげるたちは近所の神社へ初詣に向かった。
釜揚神社では多くの人が初詣に来ていた。モモたち三日月家の面々も初詣に来ていた。境内の前でお賽銭を入れお祈りをするモモ。
「それにしても、人が多いね」
「やっぱり元旦だからよ」
「お父さん、お母さん、人が集まっているところがあるよ。行ってみよう」
モモたちが向かった先には餅をつくための臼が置いてあった。そこへ着物を着た藤田のり、そして袴を着た安永拳が現れた。
「これから新春餅つき大会をはじめます」
安永が杵をもって餅をつき始めた。
「ヨイショ、ヨイショ!」
周りから掛け声がかかる。しかし、餅をつく安永の姿がどことなく頼りない。
「拳ちゃん、もっと腰を入れてついて!」
「のりさん、これ意外と疲れるって」
「情けないこと言わないで、もっともっと!」
「えーい!」
安永がへっぴり腰でもちをついていると、安永と同じ袴をきたもじゃもじゃ頭の男が突如現れた。
「拳ちゃん、そんなつき方じゃ駄目だな!ここはやっぱり主役の登場かな」
「洋ちゃん、頼みます」
安永がひなた寿司の味泉 洋に杵を渡した。
「いよっ、待ってました、若大将!」
周りからの期待の声が上げる。
「みなさーん、今年の年男、味泉洋が荒々しい餅つきをみせてあげますよ!」
洋ちゃんが力強く餅をつき始める。
「ヨイショ、ヨイショ!」
周りからの掛け声も盛り上がってきた。
餅つきが終わり、みんなでついた餅を食べ始めた。安永が疲れた顔で餅を食べていると、肩を叩かれた。
「あ、モモッチ」
「ヤスケン、明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとうございます、モモッチ」
「餅つき、お疲れ様」
「あら、見ちゃった?」
「見ちゃったよ、見事なへっぴり腰」
「それは勘弁してよ」
二人が話している姿を菊池萌子がすこし離れたところから発見した。二人の姿にいら立ちを覚えた菊ちゃんは持っていた餅を二人に向けて投げた。しかし、餅は二人の横を通り過ぎ、別の人の顔に当たってしまった。
「うわっ、なんで餅が?」
「あ、田勢くん」
「あ、モモ先輩。明けましておめでとうございます」
「おめでとうって、餅とったら?ってなんで顔に?」
「僕にもわかりません」
田勢が懸命に顔についた餅を取る。すると、菊ちゃんが田勢に近づき、
「なんで、あぁたが当たるのよ!」
「あ、菊ちゃん」
「あ、安永先輩。あけましておめでとうございます」
安永に発見され、恥ずかしがる菊ちゃん。
4人が集まったところへしげるがやってきた。しげるの後ろにはルギー・タックの双子がいた。
「ヤスケン、モモッチ、あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとうございます、リーダー。って、ルギーさんが二人……」
モモが金魚のように口をパクパクと開けた。
「ああ、モモッチ。ルギーさん実は双子だったんだ。これで、この前の謎は解けた?」
「うん……」
「モモッチ、大丈夫?」
安永がモモの顔の前に手を振った。
夜、モモはテレビを見ながら餅を食べていた。
「ああ、今日は疲れたな。お雑煮つくったり、初詣行ったり、ルギーさん双子だったりしてイベント多すぎだったよ」
「イベント大杉漣ってか」
「お父さん、それ寒い……」
すると隣でモモと同じように餅をたべていたまさ子が、
「モモ、あぁたちょっと食べすぎじゃない?今日一日で何個餅食べたのよ?」
「えっと、朝5、昼3、神社で5、夜3、いま夜のおやつで2個目かな?」
「もう18個も食べてるじゃないの?いつもより8個も多く食べてるじゃない?今日はそれくらいにしなさい!」
「はーい。さすがにこれじゃ太っちゃうか」
といいつつ、あまり気にした様子もないモモであった。
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