第94話

「なんじゃこりゃあ!!!」


 朝、部屋から見える景色を見て佑樹は絶叫する。


 佑樹の部屋から見えていた、この浮遊島の縁が見えなくなっており、地平線が広がっている。


 広いのではなく、広過ぎる。


 自分の目がおかしくなったのかと、何度も何度も目を擦るがその風景は変わらない。


 呆然とする佑樹は、


「御館様、如何なさりマシタカ?」


 そう声をかけられる。


 声色はランマルなのだが、今までのランマルの声と違って流暢で滑らかな発音になっている。まだ少し、機械音のような独特の発音は残っているが。

 ゆっくりと振り返り、ランマルの姿を確認した佑樹は、呼吸苦の金魚のように口をパクパクさせる。


 そこには、今までの見るからにロボットとわかる姿ではなく、より人間の姿に近い、言うなればマネキンに近い姿を持った人型ロボットアンドロイドが紋付袴を纏った姿で控えていた。



 ーーー



「うーん、主上様の“ご褒美”ってやつじゃないの?」


 佑樹に叩き起こされたアルファは、機嫌悪そうに答える。


「ご褒美というには、どうみても過剰だろう。」


 ランマルに確認したところ、この天空の城のある浮島の面積は約三〇万平方キロメートルだという。これは地球におけるニュージーランドよりも広い。

 もはや天空の城というよりも、天空の国といってもいいくらいの面積だ。


 さらに以前との相違点を確認すると、ロボットたち全てがランマルたちと同様の姿になっているという。


「その上、軍用ロボット総数が20万体まで増えているわ、倉庫には物資が満載されているわって、どうなってるんだよ?

 主上様は俺に世界征服でもしろと言いたいのか?」


「それもいいんじゃない?」


 アルファは欠伸あくびをしながら答える。


「私だって、主上様が何を考えられているのかなんて、全然わかんないんだから。」


 そう言われると、佑樹としては何も言い返せない。

 アルファにすらわからないなら、自分などが考え及ぶところではないだろう。


「それだけ主上様に信用されてるってことじゃないの?」


「過剰な信用だよなあ。」


 佑樹は頭を掻きむしりながら、アルファの部屋を出て行く。


「ホント小心者なのよね、ユウキって。

 生来のものなんだろうけれど、もっと傲慢になっても良さそうなものなんだけどね。」


 そう呟きはするが、小心者だからこそ主上様に選ばれたのだろうし、小心者であるからこその暴走を止めるために自分が派遣されたことも、アルファは理解している。


「それにしても、主上様も本気でこの世界を変えたいんだね。」


 そう呟くと、


「そろそろ、私も起きるとしようかな。」


 ベッドから起き上がると、大きく伸びをするアルファだった。



 ーーー



 特にロボットたちの変化は、竜四姉妹ドラゴンシスターズにも少なからぬ混乱をもたらしている。


 自分たちが名づけたことで変化したロボットが、更なる変化をしたことに唖然としていたのだ。


「ユウキー!!

 どうことよ、コレ!!」


 ペリアはファヴニルとスオルムと名付けた、2体のロボットを指差し、


「どうしてこんな変化をしているのよ!!」


 と怒鳴り込んでいる。


 ファヴニルとスオルムの2体は、それまで持っていなかった翼をその背に着けており、またその体躯も一回り大きくなったように見える。


「変化するのはいいのよ!

 でも、私の断りもなく勝手に変化させたのが気に入らないの!!」


 ペリアの言葉に、


「いや、俺が勝手にやったわけじゃないんだけど。」


 佑樹はそう答えるが、ペリアはそれでは納得などしない。

 さらに詰め寄るが、


「ま、待て!

 ペリアはここに来るまでに、他のロボットを見ていないのか?」


 そう佑樹が問いかける。


「見たけど、それが?」


「そのロボットの姿形はどうだった?」


 そう重ねて問われ、ペリアは記憶を手繰り寄せる。


「そういえば、みんな形状が変わっていたような・・・?」


 ここで佑樹はランマルたちを呼ぶことにする。


 やがて、部屋に入ってきたランマルたちを見て、


「みんな形状が変わってるね。」


 ペリアはそう口にする。


「おそらく、自分の配下にあるロボットは全て形状が変化している。

 そんなことを、たった一晩でできると思うか?」


 そう言われて、


「流石に無理、だろうね。」


 できる存在があるとしたら、それは佑樹にこの天空の城を与えた存在しかいないだろう。 


「そして、おそらくは性能もアップしてるだろうな。」


 性能に関しては、当のランマルたちもまだ良くわかっていないようなので、確定とは言い難いのだが。


「なんにせよ、やることが増えたことだけは間違いないよ。」


 ランマルたちだけでなく、戦闘用ロボットたちの性能やら、広がった土地の確認やらと、エンリケたちの相手をしつつ行わなければならない。


「主上様も、もっとタイミングをみてくれればいいのに・・・。」


 そうぼやく佑樹だった。

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