第72話
「これからパルヌ王国と交渉だってのに、今頃になって
これは
「そう言うな、婿殿。
奴らも、尻に火がついたのじゃろうからな。」
サフィアの物言いから、ペリアがよほど暴れたようだと判断する。
「わかった。
こちらの段取りをつけたら、
佑樹はそう答えて通信を切る。
そして何も映していないモニターを見つつ、
「婿殿は早ければ明日にでも戻ろう。
お主はそれまで、大人しく待って居れば良い。」
背後に控える女性にそう伝える。
「ありがとうございます、
女性の声は美しく響く。
「姫君などと呼ぶのは止めよ。
サフィアの言葉に、
「わかりました、サフィア様。」
そう返事をし、
「それでよい、ヴィルヘルミーネよ。」
サフィアはそう返す。
「それにしてもヴィルヘルミーネ、お主が出張って来るとは驚いたぞ。」
「よく言いますこと。
その御顔は、来て当然だと書いてありますけれど。」
「来て当然だとは思うておる。
驚いたのは、いきなり出張ってきたことよ。
「
「そうじゃな。
婿殿は
「白エルフと黒エルフの
良き感情どころか、悪感情を抱いていてもおかしくはないわ。」
ヴィルヘルミーネは理解している。
サフィアから佑樹が介入を始めた理由を知り、理解するに至ったのだ。
「お主とて、なんとかしようとしていたのではないのか?」
サフィアが慰めるかのような言葉をかける。
「ええ。
ですが、結果はご存知の通り。
長老たちは、
ヴィルヘルミーネは首を振りそう返し、
「それが、
呆れた口調で続けた。
「
サフィアが愉快そうに笑い、
「これは、その
そう、本音ともつかぬ言葉を口にする。
「本当に、そうですわね。」
サフィアに同調するヴィルヘルミーネもまた、不敵な笑みを浮かべていた。
ーーー
「パルヌ王国との交渉は、ジェタに一任する。」
佑樹の言葉に、
「謹んでお受け致します。」
ジェタは恭しく受け入れる。
その一方で、
「おい、本当にいいのか?」
そう佑樹に耳打ちする者もいる。
「ハンス。
なにを心配しているんだ?」
「いや、ジェタ殿が優秀なのはわかる。
だが、見た目としてどうなんだ?」
そういうことかと、ハンスの懸念を理解する。
確かにジェタが人型である時の見た目は十代半ばの少女だ。
「それでジェタをみくびるなら、それまでの相手だということだ。
それに・・・」
「それに?」
「ジェタにはパルヌ王国との交渉の全権を与えるんだ。
そのことの意味を理解できないようなら、ジェタが容赦なく搾り尽くすだろうよ。」
佑樹はそう言い、その言葉を受けたジェタはニッコリと微笑む。
その微笑みを、ハンスは獰猛な猛獣の微笑みのようだと感じていた。
「補佐にランマルとヴィオレータを付ける。」
名目通りの補佐はランマルであり、ヴィオレータは補佐というよりも経験を積ませるためのものだ。
「謹ンデオ受ケ致シマス。」
「承知致しました。」
ランマルとヴィオレータは、それぞれに佑樹の指示を受け入れる。
「それとアレクシア。
君には王都へと戻ってもらう。」
「はい、わかりました。」
すでに予測していたように、アレクシアは返事をする。
「ユウキ様。
弟も連れて行ってよろしいでしょうか?」
「ハインリッヒだったな。
連れて行ってかまわない。」
「ありがとうございます。」
アレクシアは一礼すると、出発の準備をするために退室する。
「ハンス、お前は行かないのか?」
「ああ、行かない。」
ハンスはそう答え、
「連絡係が必要だろう?」
そう言う。
確かに、交渉の進捗具合を伝える役は必要ではある。
「本音は?」
「こっちにいた方が退屈しなくて済みそうだからな。」
悪びれることなく言い放つハンスに同調したのはグスマン。
「確かに、退屈はせぬな。」
今回のような戦闘だけでなく、日常的なことでも退屈はしない。
それほどに、佑樹の周囲はこの世界の者たちにとって刺激的なものばかりなのだ。
「こき使ってやるから、覚悟しておけ。」
佑樹はそう言ってハンスの同行を許可し、
「もっとも、すぐにこき使うのは俺じゃなくなるだろうけどな。」
そう呟いていた。
ーーー
アレクシアたちは準備が整うと、すぐに出立している。
その際、佑樹は電気自動車と運転用と護衛用のロボット併せて五体を貸し出している。
それを見て、相手がどう判断するかは佑樹の知ったことではない。
アレクシアを敵に通じた裏切り者と捉えるか、敵をよく知る有意な人材と捉えるか。
それはパルヌ王国の次期指導者の器量次第だ。
「ジェタ。
君に交渉の全権を委ねるが、やり過ぎないようにな。」
「はーい。」
どこまで注意を聞いてくれているのか、実に不安になる返事だ。
「ユウキ殿は、どのあたりまで行けば成功だと考えておられるのですか?」
ファウストの質問。
「エルフたちの問題に首を突っ込ませなくするのが、最低限だな。
後は、奴隷狩りのようなことをしなくなるなら、それで良い。」
「それだけで良かったのですか?
てっきり・・・」
「てっきり?」
「城下の盟を誓わせるのかと。」
ファウストというより、この世界の人間ならばそれが当たり前なのだろう。
現にハンスなどは好奇の目で佑樹を見ている。
「そんなことになったら、面倒臭いことになる。」
「面倒臭い?」
「パルヌ王国がどこかの国と戦争にでもなったら、加担しなきゃならなくなる。
そんなのはサラマンカ王国だけで十分だよ。」
この言葉には幾つもの含みがあり、そのことをグスマンとハンスは理解している。
「圧倒的な武力でパルヌ王国を屈服させたとなれば、少なくともこの周辺の国々は
それこそ、ひっきりなしに使節を送り込んでくるだろう。」
使節とぼかしているが、本当に言いたいのは王族の女性たちを送り込んでくるということだ。ただでさえ女性の方が多い天空の城で、これ以上女性を増やしたくはない。
それに、この世界の政治的なことに触れるのは最小限にしておきたいという思いもある。
佑樹は自分が政治家ではないことを理解しており、また統治者としてもそこまでの器量ではないことも承知している。
今回のことだけで、政治的な介入は終わりにしたいのだ。
「そうそう都合よくいくと良いのだがな。」
グスマンの不吉な言葉に、佑樹は苦笑する。
一度とはいえ、大きな介入をしてしまった以上は、今後も介入せざるを得ない時がくるだろうことを、佑樹も予感しているからこその苦笑。
「ここにはテオフィーラとマサノブ隊、ムネシゲ隊を残して、天空の城へと撤収する。」
苦笑を終うと、佑樹はそう宣言して会議を終了させた。
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