冬の奇跡
ロッソジア
冬の奇跡
冬の冷たい風が吹く12月のある日。
クリスマスが近づく街の駅前で、青年はギターを抱え、寂しげに歌っていた。
「僕はずっと一人きりが嫌で
今、となりにいてほしいのに
君はここにはいない」
誰も足を止めない。街は忙しく、寒さで人々の表情は閉ざされていた。
青年は心の中でため息をつく。
「俺は、やっぱり歌が下手なのか……」
そんな時だった。小さな少女がぽつりと立ち止まり、声をかけてきた。
「お兄さん、今幸せ?」
あまりに唐突な問いに、青年は戸惑った。
「え……? 幸せ?」
少女はにっこり笑いながら言った。
「だって、お兄さん、さっきすごくがっかりした顔してたから。だから幸せじゃないんじゃないかなって」
青年はしばらく考え、やがて答えた。
「そうだよ。今は幸せじゃない。誰も俺の歌を聞いてくれないんだ」
少女は嬉しそうに目を輝かせた。
「やっぱりね! でもね、みんなちゃんと聞いてるよ」
驚いた青年は、もう一度歌い始めた。
すると少女はその歌に合わせて踊り出した。
ぎこちなくても、温かい踊りだった。
不思議なことに、周囲の人々が足を止め、拍手を送るようになった。
少女は満面の笑みで言った。
「ね? みんな聴いてたでしょ?」
青年は少し戸惑いながら答えた。
「でも、それは君の踊りのおかげだよ」
少女は首を振り、優しく言った。
「違うよ。私は毎日、お兄さんの歌を聞いていたんだ。だから、この踊りができた。私の踊りはお兄さんの歌のおかげ」
その日から二人は、毎日駅前でライブを続けた。動画は拡散され、青年の名前は知られるようになった。
だが、ある日少女は突然姿を消した。
青年は不安になりながらも、歌い続けた。
そして、クリスマスの夜。
静かな駅前に、あの声が響いた。
「お兄さん、今幸せ?」
振り返ると、そこに少女が立っていた。
「幸せだよ。誰よりも大切な相棒を見つけたから」
少女は寂しそうに笑い、言った。
「なら、私はもういらないね」
「どういう意味だ?」
「あなたが幸せなら、私は必要ない。私は誰かが不幸なときにしかいられないから」
少女は言葉を続けた。
「でもね、今日のお兄さんの顔、少し寂しそうだった。だから来たの」
青年は手を差し出した。
「君がいなかったから、幸せを感じられなかっただけだよ。もう一度踊ってくれ。俺の歌で」
少女は涙を浮かべ、笑顔で答えた。
「もちろん、よろこんで」
雪の舞う駅前で、二人は再び歌い踊った。
その日から、駅前には毎日ギターの音と少女の踊りが響き、人々の心に小さな奇跡が灯った。
冬の奇跡 ロッソジア @Rossojia_Ryusenji
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