第3話 ロンギヌスと雨
雨の日は嫌いじゃない。
むしろ服を着てない時に降る雨は最高だ。
相変わらず街に向かっていた。
馬車には警戒しなければならない。
馬車に乗っているような奴はみんな頭がおかしいから突然斬りかかって来る。
蹄の音が聞こえる度に道から
なんでこんな目に合わないといけないのかと考えるとサフィニアが悪い。
あいつが俺の身体に穴を開けて服を血だらけにしなければ今頃は街の宿でガトー・オ・ショコラを頬張りながら熱いコーヒーを飲んで宿の主人と楽しくルーシー・モード・モンゴメリの生涯について語り合っていたに違いない。
「クソッタレめ!」
三輛目の馬車をやり過ごしたところで地面を拳で殴打した。
前世――つまり転生前はもっと上手くやれていた。
例えば、あ―、思い出せない。
そういえば転生前の記憶がない。
「サフィニアめ!」
地面を彼女に見立てて殴りつける。
「何が聖女だ!」
そこで俺は思い出した。
雨の日は傘を差していた気がする。
「そうか、だから、馬車の男は斬りかかってきたのか」
雨の日に傘を差していない男は狂人だ。
馬車の男は天気予報で雨が降る日なのに傘を持っていない俺を不審に思って斬りかかってきたんだ。
鞄を叩いて傘を取り出した。
これで大丈夫だと小躍りした。
雨が傘に当たる度にボトボトと音がする。
耳を済ますとまるでオーケストラだ。
そういえば昔オーケストラの練習風景を見たことがある気がする。
指揮者があれこれ指示を出すのだが、どうだろう音の違いって難しくて俺には分からなかったけど、隣にいた女がうんうんと頷くものだから、俺もうんうんと分かった振りをして頷いったけ。
あの女は誰だっただろう。
「早く街にいないと」
傘を差しているものだから大丈夫だと思いつつも馬車が来やしないかと俺は恐れたのだけど、遠くに街が見えた時は嬉しすぎて思わず走り出してしまった。
それがいけなかったのか、街には門があって、そこには槍を持った鎧を着た男がいて、そいつに前を塞がれて、あれ、自由に出入りできないなんて閉鎖的な街だなぁって思って、選挙があったら出馬して政治家になって、この街を変えようと思ったのだけど、男が槍で突いてくる。
俺は慌てて傘を差していることをアピールしたのだけど、むしろ、槍の男が傘を持っていなかったから、こいつはたぶん狂人で何を言っても無駄だった。
俺は逃げ回ったけど、最後にはやっぱり槍で刺されて、また夢を見た。
夢から覚めると川に浮いていて、オーケストラで隣にいた女が服を来ていたのを思い出して、あぁ、そういえば俺も服を着ないとと思って、川から出て鞄を叩いてワンピースを取り出して、サフィニアに会いに行こうと思った。
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