第81話 迷子の二人
「うーん」
私は頭を捻りながら唸っていた。
その原因は先輩ではない。いや直接的な原因は先輩なんだけれども迂闊に行動した私も悪い。
「アルマも何かここから抜け出す良い案考えてよ」
「んー? 考えてるよ〜」
木の棒で地面に落書きをしている先輩が、何か考えてくれてるとは思えない。
ここは私がしっかりしなければ。
既に目的はカトレア・シャモンズさんに会う事から、この森から抜け出す事に変わっていた。
「ジークと合流出来れば勝ちなんだけど」
一度手頃な高い木に登って辺りを見渡してみたが、同じくらいの木が多く、葉っぱや茂みも生い茂ってる為、全然だめだった。
「これまじでやばいな。私たち死ぬかもですよ」
「んー」
ガシガシと先輩は無気力に地面を削る。
「聞いてるの?」
「聞いてるよ」
スクッと先輩が立ち上がり、足で落書きを消した。
たぶんだけど先輩が描いていたのは、私の似顔絵……だと思う。すっごい下手くそだったけど。
「僕はね、一つ思った事があるんだ」
「なに?」
「現地住民の人達が嘘を言ったんじゃないかっていうこと」
「どういうこと?」
「あの白骨死体頭には、刀剣で斬られたような刀傷があったんだ。それから推測した事を掻い摘んで説明するね」
先輩によると、私たちが見た白骨死体には他者に殺されたと思われる痕が残っていたのだそうだ。
あの一瞬でよく見ていたものだ。
そして現地住民の人達が、魔の森についての様々な噂を流す理由は、森に何か隠し物をしているのではないかとの事だ。
そういう噂を流せば、人が来ないだろうと踏んだのだろう。
まあ逆に、先輩みたいな考え方を持っている人や興味本位で来てみたくなってしまった人が増えたみたいだけど。
そして、そういった理由で森に入ろうとする者を森の地理に詳しい者が道に迷い、弱った所を斬殺しているというのがアルマの見解だ。
「それが事実ならすごい物騒な話だね。でもこの森の地形を正確に把握する事はたとえ現地住民の人でも無理でしょ」
「うーん、そう言われるとそうなんだけど」
先輩が再び考え込む。
まあ絶対にないとは言い切れないよね。
「それならこの森自体が魔物説なんてどうかな?」
そんなありえない仮説より、この森から脱出する算段を考えて欲しいんだけど。
私は優しいからもう少し付き合ってあげよう。
「どうゆう事ですか?」
「えっとね、この森ってすっごく昔から存在するじゃん」
「確か200年ほど前から存在していたらしいですね」
「うん。だから永劫の中で森が自我を持ち、人を誘い込んでは養分にしてるんじゃないかな」
ふむふむ。
「つまり私たちはもう少ししたら、森の養分になるという事ですか」
「そう! 蔦や根っこに絡まれて僕たちの身体の隅々から養分を奪っていくんだよ!」
一段と声を大きくした先輩が、身体をおさえて身震いする。
ありえない仮説を話し終えた先輩が私の様子を伺う。
コホン。
「わぁ、こわいこわい」
「絶対怖がってないよね!!」
顔を赤くし、ぷんぷんと先輩が怒り始める。
「いや普通に考えてありえない話じゃないですか」
それ、5歳児でも騙されませんよと追いうちをかける。
先輩はもういいよ! とご立腹になってまた歩き始めた。
(うん。アルマが勝手に行動するせいで余計道が分からなくなってるんだけど)
文句を垂れつつも、森を抜け出す良い方法が思いつかないので私はアルマの後に続く。
そして、藪の濃い道と獣道という分かれ道に出会った。
先輩は迷う事なく獣道へと進もうとする。
本能かな? 本能なら仕方ないけど、間違っているから止めなければいけない。
「あ、先輩そこは通りました」
「え?! なんで分かるの?」
「超能力です」
「嘘ばっかり」
「先輩と違って嘘はつきませんよ」
「なんだとー!!」
先輩がポカポカと殴りかかってきた。可愛い。
まあ超能力ってのは嘘なんだけど。
ただ、木にナイフで傷をつけてどこを通ったのか分かるようにしただけ。
なんで白骨死体の刀傷に気がついて、これには気付かないんだろう?
一生の謎だな。
「じゃあこっち?」
「そっちです」
先輩は生い茂った草を見つめる。
草の中を虫が飛び回っていた。そして地面にモゾモゾと動く物体もいる。
名前は出したくない。
「……行きたくない」
「先輩、私もです」
二人で薮の先を呆然と見つめていると、ぴとっと先輩の顔に虫が張り付いた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ちょ、アルマ落ち着いて!!」
先輩は自分の顔をバシバシと叩き、虫を落としにかかる。
どうやら、そうとう虫が嫌いらしい。
「ふーふー、虫の奴もういないね」
「いないから、一旦落ち着け」
先輩が虫が落ちたと思われる地面を睨みつける。
その時、後ろでガサゴソと草むらをかき分ける音がした。
(誰? いや人ではないか。それに魔物はいないはずだから動物?)
私の予想は外れた。
「あの子の娘だって聞いてたけど……ずいぶんとまた元気な子ね」
頭には黒いトンガリ帽子をかぶり、黒マントを羽織っている。
その下には白いブラウスと黒いタイトスカートを着込んでいるのだが、妙に薄手で体のラインが強調されていた。
「「まじょ?」」
先輩と私の声が重なる。
目の前の女性はどこからどうみても魔女であった。
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