私が好きなキミ

土屋シン

internalization

「阿倍野総理、短足じゃねw」

 真二がSNSにそう投稿しようとすると、警告音と共に奇妙なポップアップが現れた。



 警告:あなたの投稿は以下の表現に当たります。

1:特定個人に対する誹謗中傷。

2:不正確な情報に基づく投稿。

ファクトチェック

・26,538,428,921,532の投稿を解析したところワード「短足」は中傷度B4に分類されています。

・ワード「阿倍野総理」「短足」に関して画像投稿を分析したところ「短足」に関するエビデンスは得られませんでした。



「なんだこれ」

 真二が訝しげに呟くと隣に座って居た凛花が画面を覗き込んだ。

「あーコレね。最近出る様になったんだよ」

「何これ? 凛花知ってる?」

「何かフェイクニュース? を無くすために警告が出る様になったんだって」

 凛花がちょいちょいと真二のスマートフォンをスクロールしていくと「投稿する」と表示されたボタンが現れた。

「真二これ投稿するでいいんだよね」

「何かそういわれると投稿しづらいな」

「まーそうだよね」

 凛花はそういうと自分のスマートフォンに向き直った。

「何かさ、だんだんと世の中が良い方向に変わっていくよな」

「何、どうしたの? いつになく真面目じゃん」

 凛花は鼻で笑いながら、照れくさそうな真二の顔を覗き込んだ。

「俺さ、さっき何気なく阿倍野総理のことバカにしちゃうところだったじゃん。でも、そういうのはあんまり良く無いじゃん」

「おっ! カッコいいぞー」

 凛花は茶化す様に真二の頭を撫でる。

「やめろよ。俺はな今回のことで反省したんだ。テクノロジーのおかげで俺はこうやって正しく無い行動をしなくて済んだんだ。今度は自分で自分の行動をもっとしっかりしようって思ったんだ」 

「そーゆー、ホントは真面目で熱いとこあたし好きだよ」

 凛花が真二の目をジッと見据えて言うと、彼は真っ赤になって両手を振った。

「やめやめ! 今の無し! 超恥ずかしい!」



 只野光久は世界トップSNSの日本法人でファクトチェックを一手に任される。しかし、そういえば聞こえは良いがそのじつ彼の部署はたった3人の寄せ集めだ。

 部下の一人が画面越しに只野に話しかける。

「課長。『短足』ってワードどこの分類に置いときますか?」

「そんなもん適当な所に入れとけ! 誰も細かい事は気にしてねぇよ!」「それもそうっすね」



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