第21話 二度目の負け

「お疲れ!調子良さそうだね。」


12月、高崎ツインズ練習場。

鷲田がテツにドリンクを渡す。戦術スタッフとして、選手とチームを分析している。


「お疲れ様です!まぁまぁです。」


「そうかい?練習会の時より、良くなってるよ。来週合格メンバーでまた持久走あるからね。今度は持久走、頑張って!」


「はい!お疲れ様でした!」



「嵐、お疲れ!疲れたなー!」


松永が声をかける。

あれからダイゴとは、たまに連絡を取りあっているらしい。


「結局俺ら二人だけか、キーパーは。」


「まぁこれからまた来るのかもな。上と下のカテゴリーにはいるんだろうし。あの練習会では俺らだけってことだろ。」


「あーそりゃそうか。頑張らないとな!んじゃーまた来週!」


「またなー!」



選手帰宅後、鷲田らスタッフとコーチがスタッフルームで話している。

「嵐はサッカー歴が短いからかな。プレイにムラがまだある。」

「しかし短期間で、伸びと吸収力がかなりありますね。」

「現時点では松永。しかし嵐はこれからに期待できますね。」


翌週。


「松永、今度は負けねーぞ!」


「嵐、悪いが今回も俺が勝つ。」


持久走が始まる。


テツと松永以外は全員フィールドプレイヤーだというのに、なんとキーパー2人がトップ争いをしていた。


「はい、ラストー!」


コーチから声がかかる。



「ドクン、キュッ…」


ラスト200m程だったろうか、胸が急に苦しくなる。

「畜生、もうちょいなのに。」と思った時には、松永の背中はすでに遠かった。

それでも2着でゴールした。


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ。」


「ハァ、ハァ、また、勝ちだ、ハァ。」


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ。」


「ハァ、ラストスパートまでは、ハァ、互角だったけどな。」


「ハァ、ハァ、ハァ…」


「おい、嵐、大丈夫か?」


「ハァハァ、まぁ、なんとか、ハァ。」


「大丈夫か?嵐。ゆっくり、深呼吸してみろ。」


コーチが近づき声をかける。ゆっくり深呼吸したいが、深く呼吸すると胸が少し痛んだ。時間がたつと、徐々に落ち着いてきた。

鷲田も心配そうにかけよる。


「落ち着いてきたか。どこか痛むか?」


「すみません、もう、大丈夫です。胸が少し。」


そう言いながら、左の胸を軽く押さえる。


「胸か…まぁ、とりあえず少し休め!」


「いや、大丈夫です!やれます!」


「嵐、今日は見学!見学しながら自分の足りないとこを学べ。いいな?」


「…はい。」


そう言うとコーチは肩に手を「ポンッ」と置いて、練習に戻った。



練習後、テツは鷲田さんに呼ばれる。


「嵐、年が明けたら、クラブでお世話になってる医療機関で、検査な。」


「今日のことですか?たまにありますけど、大丈夫ですよ!」


「どっちにしろ、3月には他の選手もメディカルチェックは行うんだ。少し早めにやると思えば問題ないだろう?念のため早めにやって、大丈夫ならそれで良い。」


「…はい。わかりました。」


苦しいことはたまにあるが、その時だけだ。今も問題ないし、テツは正直めんどくさいなーと感じていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る