文化祭の魔法

朝凪 凜

第1話

 年に一度の日。それも三回しかない。

 高校の文化祭。

 その日は友達と一緒に回っていた。

 焼きそばを売っていたりお化け屋敷があったり喫茶店で休憩したり。

「それで、高橋君とはどうなの? 話とかした?」

 動物カフェという一年生のクラスで着ぐるみを着た子達が飲み物を運んでいる。

(転んでこぼしそう……)

 なんて思っていると、

「ほーら! 柚子! ムシしない!」

 一緒に回っていた由紀に怒られた。

「え? 何? 訊いてなかった」

「もーっ! だから高橋君には告白したの?」

 小声で話しかけてくるも、突然の内容に私は驚いてしまう。

「えぇっ! いや、ま、まだ、だけど。っていうかするつもり無いんだけど!」

 口ごもりながら由紀に文句を言う。

「またまたー。確か三組の所に居るって訊いたから行ってきたら? あ、私はそろそろ交代の時間だから戻らないとだし」

 あからさまに今気づいた風を装って「じゃ!」と席を立って教室から出て行ってしまった。

 一人になってしまった。特にすることも無いし、自分の交代まではまだまだ時間があるのを確認してしばらくジュースを飲んでいたけれど、特にすることも無いので私も別の教室へ移動することにした。

「三組って何やってるんだっけ……」

 悩みながら教室の近くまで行くと『13時からクイズ番組』と書いてあった。

 時計を見ると12時50分。ちょっと見てみようかな、という気まぐれと高橋君はいませんようにという願いを込めてそろりと教室を覗くと

「おっ、田所。丁度良かった」

 ささやかな祈りは届かず、すぐに見つかってしまった。本人に。

「あれ、こんなところでどうしたの高橋君」

 極力さりげなさを装って返事をする。さりげないと思う、自分の中では。

「ちょっとクイズに出てくれね? あいつらより出来るってことを見せたいんだ。な?」

「えぇ、いきなり? クイズ? っていうか私なの?」

 あいつらと指さしたのは高橋君とよく一緒に居る二人組だった。確か山本君と松本君。

 しかしそれ以上に一緒に出て欲しいと言われて動転してしまう。

「今他に居ないし、知らない人とは組みづらいし、無理かな」

 改めて教室を見回すと、どうやらクイズにエントリーして準備しているのは左から多分一年生だろう女子二人組、見たこと無い男子二人組、高橋君が一人いて、その隣に友達二人。

 後は遠巻きに眺めているギャラリーがそれなりに集まって、立っている人も居れば用意された椅子に座っている人も居る。

「……まあ、そこまで言うなら仕方ないな、いいよ」

 照れ隠しでとてもぶっきらぼうに返事をしてしまった。内心は顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。

『それじゃあ、参加者が出そろったところでクイズを始めたいと思います!』

 司会の人がマイクを持って始めようとしていたので、私はスタスタと解答席――という名の高橋君の隣――へ歩いて行った。

「何だ? 怒ってるのか? 悪いな、変なのに付き合わせて」

 憮然とした顔で歩いていたのをそう捉えたようだった。私は嬉しさと恥ずかしさを堪えていただけだったのだが、どうやら不機嫌な様に捉えられたらしい。

「私は別に……」

『クイズの優勝者には遊園地チケット2枚を贈ります』

 私の声にかぶせて司会が進行を始める。

「じゃあ、このチケットでチャラにしてあげるわ」

「よーし、じゃあ優勝しなきゃな」

 そう笑って答えてくれるのを見てしまい、弾みでつい顔を伏せてしまった。


 そうしてクイズが始まる。

 拙い司会進行でもクイズはちゃんと進んでいき、私たちと山本君たちが同率一位になっていた。

 高校生の考えるクイズは大体授業でやった内容だから案外簡単だ。

『最終問題です!』

 途中から二人とも真面目に答えていて、いつの間にか恥ずかしさが飛んで行ってしまった。そのまま忘れて問題に聞き入る。

『タロウくんのお母さんには5人の子供がいます。

 イチロー、ジロー、サブロー、シロー

 さてもう1人の子供の名前は?』

「はい! ゴロー!」

 松本君が答える。

『ハズレです! はい、他には』

 今のハズレで皆に疑問符がのぼり、その間に私が答える。

「はい、タロウくんです」

『正解!』

 最後の問題だけなぜか引っかけクイズになっていたのが幸いした。

「おぉー、すげぇな。俺も間違えるところだった。ありがとうな」

 素直にお礼を言われ、さっきまで忘れていた恥ずかしさがぶり返してしまった。

「い、いいのよ。ほら勝ったんだから約束忘れてないでしょうね?」

「おう、じゃあ一緒に行くか」

 司会の人から遊園地チケット2枚を高橋君が手にし、コメントを何か言ったのだけれど、私はもう訊いていなかった。


 クイズが終わって遊園地に行く約束をしたあと、自分の教室に戻ってくると、由紀がニヤニヤして待っていた。

「おめでとう。放送でずっと訊いていたわよ」

 開口一番にそんなことを言われ、耳まで真っ赤になってしまい、

「こんな恥ずかしいこともう二度とやらない!」

 そう言い捨ててクラスの手伝いに逃げた。

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文化祭の魔法 朝凪 凜 @rin7n

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