日常の22『竜神×騎士』
時間は少し遡る。
警察官に任意の事情聴取を求められたのは、出席した学生の中でも数十人。
その中にユーリも含まれていて、彼は警察署に向かってしまった。
家で待っているように言われたライガだったが、気になることがあって大学内の外れまで歩いていた。
春の風を切って歩き続けていると、だんだんと周囲から人が減っていく。
すでにライガひとりが、アスファルトの道を進んでいた。
舗装された道の脇には、雑草が生い茂っている。アスファルトの所々が劣化していて、ヒビが入っていたり、崩れている箇所もあった。
追いかけているのは、ニオイ。
人間の、血の臭い。
「ライガン族の獣人さん?お散歩かしら?」
気配もなく背後から急に声を掛けられ、ライガは空気を裂くように身構えながら飛び退く。
そこには天童花束が、笑みを浮かべて立っていた。
「そんなに驚かないでよ。もう害意はないって何度も言ってるでしょう?」
「ならば、気配を消すな。……普通に話しかけろ」
「態度が悪いわね。誇り高きライガン族が、ちょっと背後を取られたくらいのことで。……いや、だからか」
ライガの鼻がぴくり、と動いた。
「……獣人風情が勝手な行動を起こしているようだから、注意してあげようと思ったの。大事な大事なユーシャサマの言いつけ、守らなくていいのかしら?」
悪戯っ子がするような表情で、花束がライガを見上げた。
「ユーリの周囲の安全を確保するのも、俺の仕事だ」
「そう。じゃあ、私も同行しようかしら。バッグの中と同じ血の臭いを、追いかけてきたんでしょう?ライガン族は鼻がきくものね?」
「…………………」
「沈黙は肯定と受け取ります。で、教室内に同じ血の臭いを纏わせている子もいたのよね?」
花束の得意気な顔とは正反対に、ライガの表情は不快感を隠そうともしていない。
「…………………」
「ちょっと。いくらなんでも無口がすぎるでしょう?」
「……敵とは話さん」
溜息がひとつ。ガンコに耳が生えたような奴ね、という小さな呟きを、ライガは聞き漏らさなかった。
そのまま首を傾けながら、花束は目を細める。
「自分で言うのもなんだけど、ライガン族には貸しがあるんだからね?知らない?騎士団長のカムランって男?」
その名前に、目を見開いてライガはたじろいだ。
「っ!?……父を知っているのか!?」
「あら?カムランに子どもなんていたかしら?……っていうか、いつまで立ち話してるのよ?早くあの廃屋に行きましょう?」
花束が歩をひとつ進めると、ライガは思わず後ずさってしまった。
やはりこの女は侮ってはいけない。ライガの野生がそう警鐘を鳴らした。
花束の視線の向こうには、今にも崩れ落ちてしまいそうな廃屋。
「………あの解体現場にね」
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