懐かしき温もり

勝利だギューちゃん

第1話

ある休みの日、僕は列車に乗った。

今は珍しくなっている夜行列車だ。

夜に駅を発車して、明け方に目的地に着く。


「元気かな」


ふと想う。


≪だらしないね≫

≪悪かったな≫

≪男の子でしょ?ほらつかまって・・・≫

差し出された、女の子の手を握った。


とても、温かかった。

でも、顔は思い出せない。


あの後、僕はすぐに都会へと、引っ越しをした。

もう10年も前になる。


いや、まだ10年というべきか・・・


一通の手紙を手にした。

その彼女からだ。


字は、年頃の女の子らしい字。

でも、字は上手くなっている。

それが、時の流れを感じさせた。


≪君は少しは鍛えたほうがいいね≫

≪僕には無理≫

≪そんなんだと、女の子を守れないよ≫

≪君は、守る必要がない≫

≪どういう意味よ≫


そういった、喧嘩も懐かしい。


この手紙は、無視するという選択肢もあった。

でも、都会へと越す時、彼女からのメッセージが、離れなかった。


【今度会う時は、成長した君の姿を見せて。】


この成長というのは、体ではなく心の事だろう。

でも・・・


当時と全く変わっていないと思う。

それを決めるのは、彼女だが・・・


いつしか眠りに着き・・・そして、夜が明けた。

列車は、目的地へと着いた。


駅へと出た。


「さてと・・・行きますか」


僕は、手紙の住所を頼りに、歩きだした。

「確か、老舗の旅館の娘だったな。ただで止めてくれるのかな」

甘い期待が、よぎる。


30分後。


「だめだ。休もう」

僕は、近くのベンチに腰をかけた。


陽は真上に来ていた。


うなだれている僕に、上から声が聞えてきた。


「相変わらずだね。一目で君だとわかったよ」

この口調、変わってないな。


「悪かったな」

「よく来ると言う選択肢を選んでくれたね」

「ああ。成長した僕の姿を判断してほしくてね」

「変わってないね。君は」


やはり、そう取るか・・・


逆光のせいか、顔は見えない。

でも、彼女である事に間違いない。


手を差し伸べられる。


「がんばれ!男の子。私が支えてあげるから」

黙ってその手を取る。


温かい。


「君も変わらないね」

彼女に言う。


「そんな私を、君は好きになってくれたんでしょ?」



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懐かしき温もり 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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