俺は優しいだけの男じゃない

直也

こうして俺は立ち上がった

「今度さ、カラオケ行こうよ。」

「いいですよ。」

俺は少し戸惑った。男女が二人でカラオケをする。そのことに関しての対応は二つ考えられる。仲良しだから問題なく行こうとする人、カラオケのような密室で二人っきりは難しいと断る人。彼女の返事は前者。つまり、信頼はされているらしい。

「いいの? 男と二人でカラオケなんて怖くないの?」

相手が一度快諾したのだから、本来ならこの質問は必要がない。出かけるプランに問題がないのであれば、詳細な計画を立てればいい。だが、俺は彼女の真意を確かめたかった。

「え! 別に今更気にすることでもないですよ。」

「気にしないんだ。」

「はい。珍しいことではないですし。」

「あ、そう…」

おわかりいただけただろうか。仲良しだから男女二人でもカラオケに行くというのは、これも二つの意味がある。ある程度仲良しな男とは問題なくカラオケに行くというパターンか、君となら行くというパターンの違いである。そして、今回がどちらのニュアンスかというと…悲しいからそれ以上は言わせないでほしい。

そしてもう一つ、前者と後者で発生する大きな違いを悲しいが言わねばならないよな…。前者は男友達が対象、後者は恋人か何か特別な人に対する反応だ。つまり、前者の反応を食らったものは、嫌われていないが特別な意識もされていない。勤務中に奥さんが体調不良になり、「君の代わりはだれでもいるんだ」と上司が言ったとする。これにも二つの意味がある。ホワイトな会社であれば、「君の仕事はほかの人でもできる、奥さんにとっての旦那は君だけだから帰りなさい」という意味で使われ、ブラックな職場では、「君の代わりなんていくらでもいるから簡単に首にできる」という脅し文句として使われる。ここまで極端ではないが、今回のカラオケに二人で行く理由と何か似ている、そう考えずにはいられなかった。

なーんて、納得できるかあああああああ。こうなったら、俺は目の前の女の子に俺という存在を意識させる。俺を恋愛対象にさせるだけだ。カムヒアー、魅力的な俺。

ということで、優しくて話しやすいだけだと言われ続けたおれは今日を境に劇的な変化を遂げる!! そう宣言しておこう!!

待ってろリア充! 待ってろ、新婚旅行!

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