第79話 宇宙旅行


「んぁー勉強疲れた~」


 弓花の部屋で勉強していたが、二時間も経つと集中力が切れた。


「お疲れ様」


 弓花は労いの言葉をかけてくれる。

 勉強はあまり好きではなかったが、弓花と一緒なら続けられるな。


「今日はもう終わりにして、少しまったりしましょうか。私もしんどかったし」


 両腕を伸ばして立ち上がると、弓花も同タイミングで両腕を伸ばしていた。


「そうだな。ベッド行こ」


「ええ。行きましょう」


 二人でベッドへ横になる。

 もう弓花とは常に一緒なので、二人でベッドに横になろうが何の抵抗もなくなった。


 手を繋いで、弓花の大きな胸へ顔を埋める。

 弓花の胸はどんな安眠枕よりも心地良いし、疲れどころかストレスや不安も全て消し去ってくれる。


 ここにずっといられれば、俺は無敵だ。

 財布を失くしても大丈夫。スマホの画面が割れても大丈夫。


 何もかも許せてしまう。

 急に誰かから殴られたって弓花の大きな胸に挟まれれば、どうでもよくなってしまう。


 この温もりが全人類に行き届けば、この世界から争いなんてなくなるのに……


「甘えん坊さんね」


 そう言いながら俺の頭を撫でてくれる弓花。


 弓花は胸に何かを挟みながら撫でるのが得意だ。

 いつもお世話になっております。


「悪いな、もう動けそうにない」


「いいのよ。咲矢だって昨日は私の我儘を聞いてくれたじゃない。お互い様よ」


 我儘を言える相手というのは貴重だ。


 みんな我慢して、無理して、必死で今を孤独に生きている。

 俺も今まではそうだった。

 そんな俺を弓花は両手を広げて温かく包み込んでくれた。


 俺にとって理想の相手であり、もう人生には欠かせない存在。

 血の繋がった双子とはいえ、愛を捧げないわけにはいかないだろ……


「お兄ちゃん」


 妹の華菜が弓花の部屋へ入ってきた。


「どうした~」


「勉強教えて欲しい。お姉ちゃんと一緒に」


「すまん、俺はもうここから動けない」


 華菜の頼みは聞いてあげたいが、弓花の胸の中からとてもじゃないが抜け出せそうにない。


「わかった。じゃあ絶対に動かないでね」


「えっ」


 弓花の胸を枕にしている俺の顔ごと弓花を抱きしめる華菜。

 俺は弓花の大きな胸と華菜の成長途中の胸に挟まれており、身動きが取れなくなった。


 四方八方に柔らかい感触があり、人生で一番凄いことになっている。


 身体がぐったりとする温かい空気に、リラックスの境地へ誘ってくれる心地良い匂い。


 まるで宙に浮いているような気分だな……


 そう、これはまさに宇宙だ。

 俺は今、宇宙を彷徨っている。


 宇宙旅行をするのには何千万もかかると聞いていたが、まさか無料で行ける方法があったなんて……


 宇宙では呼吸ができないと聞いていたが、実際に今の俺も二つの胸に圧迫されて呼吸ができない状況だ。


 酸素ボンベから酸素を吸わないといけない。

 俺は意識が朦朧としている中、手探りで酸素ボンベに繋がれていると思われるチューブらしきものを吸った。


「あんっ」


 酸素ボンベを吸ったはずだが、華菜からあまり聞き馴染みのない高い声が聞こえてきた。


「ちょ、お兄ちゃん何してるの?」


「……こ、こきゅー」


「もぅ」


 華菜は呆れた声を出して、さらに胸を押しつけてくる。


 かつて宇宙から地球を見た宇宙飛行士は、地球は青かったという名言を残したそうだ。

 俺に言わせれば、乳首はピンクだったといったところだな――


「咲矢、あれが異様に大きくなっているわよ」


「宇宙で過ごすと無重力空間での影響もあり、地球へ帰った時に身長が伸びているそうだ。きっと俺も無重力空間の影響で、色々と大きくなっているのだろう。宇宙凄い」


「あなたはいったい何を言っているのかしら?」


 弓花は俺の正気を取り戻そうと、胸を大きく揺らしてくる。

 弓花さんそれは逆効果だ。これ以上、俺をおかしくさせないでくれ。


「咲矢ってほんと胸が好きよね」


「ああ」


「清々しいほど素直ね」


「だが、もどかしくもある」


 切なさを抱いている俺を心配した目で見てくる弓花と華菜。


「おっぱいは大好きなのに、女性におっぱいが前に二つ、合計四乳房ついてたら嫌というか、あんまり嬉しくないんだ。もどかしいよな……おっぱいは大好きなのに、何個もついててほしくはない。むしろ一人に一つじゃないと駄目なんだ。でも、弓花と華菜が二人いれば、その理屈は覆される。一つじゃないと駄目なおっぱいが二つを維持できるんだ。これを奇跡と言わずして何と言う?」


「……バカと言うのよ」


 弓花からげんこつを食らい、華菜からは腕を噛まれてしまう。


 二人の制裁を受けて、俺は何とか目を覚ますことができた――

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