第42話 せいしを懸けた戦いⅠ


「五つの要求を書き終えたわ」


 弓花はにやりとしながらペンを置いた。


「要求の開示はしない。私がしたいことを順番に発表していくだけ」


「それで構わない」


 俺は絶対に拒否すべき事項に使うだけなので要求の順番はさほど問題無い。


 弓花の考えは手に取るようにわかる。

 絶対にキスや一つになるなんて項目を入れてくる。

 その二つを拒否できれば俺は作戦成功なのだ。


「まず一つ目は浮気調査ね」


「……は?」


 意外な要求に俺の思考は固まる。


「スマホを提供しなさい。咲矢の目の前で調べて浮気調査をするわ」


「……ちょっと待て、それは色々とプライバシーがあるだろ」


「嫌なら拒否権を使えばいいじゃない。二つも残っているのだから」


 ふふふと笑う弓花。

 どうやら弓花も俺の考えを把握し先手を取ってきたようだ。


 自分のしたいことではなく、相手が拒否したいことを書いて俺の拒否権の破壊することを企んでいるのだ……恐ろしいなまったく。


「俺を疑っているのか?」


「ビチ下さんとは連絡先を交換しているみたいじゃない。もしかしたらラインで愛を囁き合っているかもしれないし、エッチな自撮り写真を送り合っているかもしれない」


「んなわけあるか。本当に俺がそんなことしてると思うのか?」


「あなたのことは全て理解しているつもりだけど、男女の違いの部分は把握できない。あなたにそのつもりが無くても、欲に駆られて変なことをしている可能性もあるということよ」


「なら、好きに見るがいいさ」


 俺はスマホをポケットから取り出して弓花に渡す。


「拒否権を使わないの?」


「ああ。別に全て見られてもかまわないからな」


「む~」


 弓花はこの要求で拒否権を使ってくると考えたようだが、上手くいかずに怒っている。


「見ないのか?」


「咲矢のこと信じてるから必要無いわ」


 自分で要求したのに拒否してくる弓花。


「一パーセントでも疑われたくないから見せる」


 俺は自分で心春とのラインでのやりとりを見せる。

 特に好意を向けたやり取りはないので、何の問題も無い。


「ほら?」


 疑っていないとは言ったものの、しっかりとスマホの画面を凝視している弓花。


「確かに、友達同士でありがちな上っ面の会話ばかりね」


 何の運命か、そんな時に限ってピロンとスマホから音が鳴って心春からメッセージ届いてしまう。


【今、家のベッドで横になって咲矢君のこと考えてる】


「ちょっと、咲矢はこれはどういうことよ?」


「突然の事態に俺も困惑しているところだ」


 普段はこんなメッセージ送ってこないのに、こういう時に限ってなんか匂わせなメッセージ送ってくるとは……


【俺は今、弓花と一緒に俺のスマホで動画見てる。さっきのメッセージが表示されて困っているんだが】


 どうにか誤魔化しつつも、心春に釈明のメッセージを求めることに。

 心春なら状況を察してフォローするメッセージを送ってくれるはずだ。


【なにそれウケる。雰囲気悪くしちゃったかな? あたしは咲矢君のこと好きじゃないから安心してね弓花さん。まぁあたしのことなんて眼中にも無いと思うけどさ】


 心春から釈明のメッセージが届く。


 気が無い癖に思わせぶりなメッセージを送ってくるとは、とんだ困ったちゃんだ。


「だそうです弓花さん」


 隣で静かに怒っている弓花。

 思わず敬語になってしまった。


「……何か匂うよね、あの女」


「と言いますと?」


「好意が無い異性と教室で仲良くしたり、メッセージのやり取りなんてするかしら?」


「それは俺達に友達がいないだけで、割と普通のことなんじゃないか?」


「そうなんだけど……何か企みというか、思惑がありそうな気がしてならないのよ。でも、それは私から咲矢を奪おうとか、咲矢の気を引こうとかそういう類のものじゃない。だから、不気味な感じというかモヤモヤするのよね」


「考え過ぎじゃないか?」


「あなたが楽観し過ぎてるから、私が考え込んでいるんじゃない」


 弓花に睨まれてしまう。

 過度に不安を抱いているみたいだな。


「まぁ今は咲矢との二人きりの時間を楽しみたいからビチ下さんの話題は避けましょう」


 俺のスマホの電源を落とす弓花。

 もう誰にも二人の時間を邪魔されたくないみたいだ。


「弓花のスマホは見たら怒るのか?」


「……駄目」


 意外にも俺の要求を拒否してくる弓花。


「ま、まさか浮気してるんじゃないだろうな?」


「そんなわけないでしょ。ラインとかなら見せれるわよ」


 友達の数が六人という悲しい数字を見せている弓花のライン。

 スマホの壁紙は俺とのツーショット写真になっていて、少し気恥ずかしかった。


「逆に何が見せられないんだ?」


「ネットの検索履歴とかは嫌ね」


「双子エロ、とかで検索してたりしてるのか?」


 何で知ってるのよ!?という表情を見せてから顔を伏せた弓花。


 どうやら自分で墓穴を掘ってしまったようだ。


「安心しろ、俺も同じこと検索したりしてるから」


「そんなフォローはいらないわ」


 検索履歴とかは考えてもなかったな……

 万が一のために、後で全部消しておこう。


 とはいえ五つの要求の内、一つは問題無く叶えることができたな。

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