第18話 膝枕


「ただいまー」


 家に帰ると華菜の姿がなかったので昨日と同様に怒られることはなかった。


 華菜はダンス部に所属しており、休みの日も少なく活動も大変らしい。


 俺達の帰宅の後に、母親が帰ってくる。

 買い物へ行っていたのか、両手に重たい荷物を持っていた。


「お母様、夕飯の準備手伝います」


「あら、ありがとう弓花ちゃん」


 母と弓花はそのまま台所へと向かっていった。


 俺は冷静になりたかったため、自分の部屋でリラックスすることに。


「……このままでは明らかにまずい。まずいぞ」


 制服から部屋着に着替えてベッドにダイブし、今後の行方を心配して悶える。


 双子である弓花のことを確実に好きになってしまっている。

 このまま距離を詰めていけば、その気持ちはより高まることだろう。


 だが、距離を離すにも無理があるし、俺はもっと弓花と一緒にいたいと思っている。


 そんな自分に腹が立つので、音楽でも聴いて目を閉じ自分の世界へ入ることに――



     ▲



「んー……」


 どうやら俺は音楽を聴きながら眠ってしまったようだ。


 そんなに時間は経っていない感覚はするので、そろそろ夕飯の時間だろうか。


 それにしても何故か凄く心地が良いな……

 枕も柔らかいし温かい。


「って、おい!?」


 目を開けると、弓花が俺の顔を覗き込んでいた。


「起きた? そろそろ夕飯よ」


 何故か俺は弓花に膝枕されてしまっていた。

 通りで天国のように心地が良かったわけだ。


「勝手に入るなよ」


「夕飯だから呼びに行ったら、咲矢が可愛い顔で気持ち良さそうに寝てたんだもの」


 俺は起き上がり、弓花から離れる。

 少し距離を置こうと考えていた矢先に、めっちゃ接近してきやがる。


「そこは普通に起こしてくれよ」


「膝枕は嫌だった?」


「良いに決まってるだろ」


「ふふっ、矛盾してるわよ」


 ……これはもう無理だな。


 俺が距離を置こうと考えても、弓花が距離を詰めてくる。

 もう逃げ場はない。


 俺が耐えるしかない。


「夕飯行くぞ」


「ええ」


 歩き出そうとする俺の手を自然に掴み、手を繋いでくる弓花。


「何で手を繋ぐ?」


 これ以上俺に刺激を与えないで欲しいが、弓花はそれを許さない。

 俺を逆なでするように触れてくる。


「別に双子だから手を繋ぐのは不思議ではないわ」


 双子だけを切り取れば不思議ではないが、双子の高校生となれば話は別だ。


「確かにな。だが、二人きりの時だけにしてくれよ」


 だが、俺にとっても嬉しいことには違いないので、妥協案を提示することに。


「ええ。二人きりの時にだけするわ」


 宣言通り、リビングに入り母と華菜の前に立つ時には弓花は手を離してくれた。


「お兄ちゃん! あの芸人さん出てるよっ」


 家に帰ってきていた華菜は俺の手を強引に引っ張ってテレビの前に連れてくる。

 

 家族なら手を繋ぐことは不思議ではない。

 だから弓花と手を繋ぐのも当然のことと自分に言い聞かせる。


『誇張したキリトのモノマネしまーす』


 テレビでは俺の好きな上半身裸のお笑い芸人がネタを披露していた。

 華菜は俺の腰に抱き着きながら、一緒にテレビを見ている。


『スイッチ! スイッチ! アスナスイッチィイイイアアアアア!!!』


 お笑い芸人のネタに俺は思わず吹き出す。

 楽しいことは悩みや辛い思いを忘れさせてくれるので、俺はお笑い芸人さんが好きだ。


「この芸人さん面白いわよね。私も好きだわ」


 俺の空いている右腕を掴みながら一緒にテレビを見る弓花。


 おいおい家族の前で大胆にくっつき過ぎだろ!?

 勘違いされたらどーすんだよ!


「あら、咲矢モテモテね」


 この状況を母は笑って見ているが、華菜は笑ってはいなかった。


「早く食べないと冷めるわよ」


 母の一言で、みんなはテーブルの席に座ることに。


 今日はとんかつ。

 弓花も手伝ったとされるその料理は素直に美味しいと感じた。


 きっと弓花は父と二人で暮らしていたこともあり、料理をする機会が多かったのだろう。

 俺は料理が得意ではないので、そこは双子の弓花との異なる点だ。


 トンカツにソースではなく醤油をかけている弓花、その習性も俺と同じ。

 

 駄目だな俺は……

 ふと油断すると弓花のことばかり考えていると気づき、反省することに。


 もう弓花のことで頭がいっぱいだ――

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