第4話 初夜
「
リビングに降りると
「一緒に行くか」
俺は再び階段を上がり、二階へと戻る。
二階には四部屋有り、俺と
しかし、父は出張続きで家を留守にすることが多く、帰ってきても母の部屋で一緒に寝ているので父の部屋は物置となっていた。
その部屋が弓花さんの部屋となる。
「ここが俺の部屋で、隣が弓花さんの部屋だ。その隣は華菜の部屋だな」
「説明、どうもありがとう」
口では感謝しているが、表情にはありがたみが一切無い。
それが無愛想な人の特徴でもあるのだが、ちょっと恐くもあるな。
きっと俺も弓花さんと同じだからクラスメイトから恐がられて距離を取られているのかもしれない。
反面教師である弓花さんのおかげで自分の駄目な所が理解できた。
「送られてきた荷物は部屋に全部入れといたから」
「何から何まで申し訳ないわね」
弓花さんと一緒に部屋へ入る。
ベッドやタンスなどは適当に配置しちゃったからな。
「元は物置だったと聞いていたけど、凄く綺麗ね」
「俺がここ二日ずっと掃除してたからな」
「そこまでしなくてもいいのに」
「一度掃除始めたら完璧に綺麗にするまで止まらないんだ。潔癖症だって言ったろ」
最初はせっかく迎えるんだからある程度は綺麗にしたいという気持ちだったが、いつの間にか完璧に清掃してしまっていた。
「家具は適当に俺が配置したし、位置が気に入らないのがあれば今の内に言ってくれ。動かすから」
「いや、別に不満は無いわ……引っ越し前の私の部屋に似てるし」
またも似ている発言。
俺と弓花さんは一瞬目が合ったがすぐに目を逸らした。
「荷物整理手伝うか?」
「これからゆっくりやるから大丈夫。気遣ってくれてありがとう」
弓花さんも疲れていて一人になりたいだろうから、俺はささっと部屋を出た。
これから俺の部屋の隣に弓花さんが毎日過ごすと考えると、何だかそわそわしてしまうな。
▲
コンコンとノックの音が部屋の扉から聞こえてくる。
華菜と母親は基本的にノックをしてこないので、弓花さんであることが確認できる。
「どうした?」
こちらから扉を開けたのだが、想定しない事態に陥ることに。
「風呂あがったから……お母様に咲矢君に伝えてと言われて」
風呂上がりの弓花さん。
ラフなシャツ一枚という部屋着に着替えていて、胸元が見えてしまっている。
正直、その谷間に目が行ってしまい一瞬で胸の鼓動が高鳴った。とんでもない破壊力だな。
「そうか、報告ありがとう」
「いえ……」
そのまま隣の部屋に入ろうとして背中を向けた弓花さん。
その背を見て、俺はあることに気づいた。
「それ、ミスリルのライブTシャツか?」
正面からは胸が大き過ぎる故に柄が歪んでいて気づかなかったが、背にライブ日程が書かれているのを見て俺の好きなバンドであるミスリルメルガイテのライブTシャツであることがわかった。
「何で知ってるの?」
「俺も同じの持ってるからだ」
「……えっ、嘘?」
驚いた表情を見せる弓花さん。
まさか好きなバンドまで一緒だとは、何かもう怖くなってくるな。
まったく別の環境で育っているのに、性格や好きな音楽が同じ。
これが一卵性双生児の本気ってやつか。
「何か怖いわね」
そう言って自分の部屋に入っていってしまった弓花さん。
ミスリルは昔から活躍しているバンドだが、俺の世代に好きな人は少ない。みんな流行りの音楽を聴いているからな。
それでも一致しているとなると、これはもう弓花さんの言う通り恐怖の域だろう。
俺は用意していた寝間着を変更することに。
同じ種類の服ではないとはいえ、流石にバンドTシャツのペアルックは恥ずかしいからな。
ライブTシャツを寝間着にするという価値観まで一緒なんて……
恥ずかしいよりも何故か嬉しいという気持ちが勝っていた。
あまり自分の好きなものが一緒の人と出会ってこなかったからな……
その後は大人しく風呂に入ったが、どこか心が落ち着かなかった。
ここに全裸の弓花さんが少し前まで入っていたとか、そんな気持ち悪いこと考えたりしてしまって自分を叩きたくなった。
「弓花さん、可愛いな……」
風呂場で誰にも聞かれない独り言を放って、思いを吐き出す。
双子とか抜きにしても、急に綺麗で可愛い女性と同居することになったら誰だってそわそわしてしまうだろう……
ましてや俺も弓花さんも高校二年生。
恋人とか恋愛という言葉が盛んになる時期。
ちょっと俺には刺激が強すぎて心ここにあらずといった心境だ。
双子の弓花さんも同じ気持ちを抱いていたりするのだろうか――
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