中身そっくりな双子の妹が俺と一線を越えようとしてくるんだが!?

桜目禅斗

第一部

第1話 家族会議


「みんな、大事な話があるの……」


 母親が俺と妹の華菜かなの前で深刻な表情を見せる。

 ただ事ではないと俺達は察して、リビングのテーブルに座り母親の話を聞く。


 父親は海外出張をしており今は家を留守にしているため、この場には三人のみだ。


「これから家族会議を行うわ」


 去年にも家族会議が一度だけ行われた。

 それは母がバツイチであったという報告と、俺は前夫との子供だったという話だ。


 あの時は衝撃を受けたが、大きなショックは無かった。

 今更どうにもならない話だったし、受け入れるという選択肢しかなかったからな。


 だが、さらに家族会議となると、他にどんな秘密を隠されていたのかという怖さもある。


「お兄ちゃん何かしたの? 海外留学とかしたいとか? 絶対嫌だよそんなの」


 俺の手を掴んで心配そうな目を向ける華菜。


「いや、俺は何も……むしろ華菜が何かしたんじゃないのか? 嫌いなクラスメイトを勝手にカナダへホームステイ申請して、無理やり海外留学させたとか」


「そんなパワープレイしないよ! お兄ちゃんはあたしを何だと思ってるの!?」


 海外留学で攻められたので海外留学で返したのだが、華菜にも心当たりがないみたいだ。


「二人のことじゃないわ。でも、何か秘密を持っているのなら先に白状して。咲矢さきやがTwitterで嘘のエピソードばっか書いて炎上したとか、華菜が十四歳なのに妊娠しちゃったとか」


「「してないから!」」


 母親のふざけた予想に俺と華菜は声を揃えて否定する。


「なら……本題に入るわね」


 どうか、不幸なお知らせは避けて欲しい。

 宝くじで二億当たったとか、そういう幸せな報告であってくれ。


「……実は咲矢はだったの」


「え?」


 母親の報告に俺は動揺を隠せない。

 双子だったということは、俺に兄やら弟がいるということだからな。

 

 それに、双子がいた記憶は一切ない。信じられないというか、実感が湧かない話だ。


「しかもあの……あれよ、イタリアのソーセージみたいな」


「一卵性双生児のことか?」


「そう、それ」


 一卵性双生児の双子ということは、俺とそっくりな人間がこの日本のどこかに存在しているということだ。

 それはちょっと恐怖すら芽生えてくるな。


「それは意外かも……で、その双子はどこに?」


「去年の家族会議で、実は咲矢が前夫の子供だと伝えたでしょ? 咲矢が一歳の時に私は離婚して咲矢を引き取った。もう一人は前夫の方が引き取ったの」


 どうやら母親の離婚は夫婦の仲を別けただけではなく、双子の仲をも別けたみたいだ。


「それでこの前、前夫が病気で亡くなってしまったみたいで、私はひっそりと葬式に行ったのよ」


 物事を整理する時間も与えず、母は話を続ける。


「そこで、双子の子と会ってね。どうやら前夫は再婚とかしてないらしくて、しかも親戚もほとんどいなくて高校生で独り身になっていると聞いたの」


「可哀想だな、もう一人の俺」


 双子の境遇を聞いて他人事とは思えない。

 俺も両親が病気で亡くなると考えると、胸が痛くなるしな。


「そこで私はその子を見ていられず、私の家に来ない?と誘ったの」


「ちょい待て」


 独断で双子を家に迎え入れようとしている母親。

 家にもう一人の俺がうろちょろしてたらちょっと恐いぞ。


「あの子は今、岐阜に住んでるから藤ヶ谷ふじがや家の住む埼玉に来ないだろうなと拒否されることを前提に言ったのよ。私の子とはいえ、父と離婚してることもあって私への印象も良くないだろうし」


「環境も大きく変わるし、友達とかもいなくなっちゃうから来ないだろうな」


「そう、そう思ったんだけど、めっちゃ前のめりで行きますと言ったのよ」


 嘘だろ……これから俺、もう一人の俺と過ごすの? 

 この街に俺とそっくりな人が存在しちゃうの?


「何か元々、将来的に都会の大学にしたかったらしくて好都合だったとか。友達もいないから寂しくもないですって。自分で誘ったから断れないし、もう歓迎するしかないわ」


 どうやら既に迎え入れるという結論は出てしまっているらしい。

 これは流石に動揺するぞ。俺のそっくりさんと同居することになるんだからな。


「ということで明後日に来るみたい」


「明後日!? 早っ!」


 二日後には俺のそっくりさんが登場するらしい。心の準備とかできねーよ。


「え~あたしにお兄ちゃんがもう一人できるってこと? ハーレムじゃん」


 華菜は少し嬉しそうにしている。

 妹が二人になるとかだったら俺も喜んでいたかもしれないが、増えるのは俺だ。


「いや、女の子だからお姉ちゃんが増えるのよ」


「女性なの!?」


 華菜は驚くが、俺も同様に驚く。

 自分のそっくりさんが現れるかと思っていたが、自分に似ている女性が現れるということになるみたいだ。


「……ちょっと待て、それは嘘だ。確か、一卵性双生児は同性しかあり得ないはず。男女の一卵性双生児なんて聞いたことがない」


 一卵性双生児の芸能人を何組か思い出しても、みんな同性である。

 二卵性双生児なら男女でもあり得る話だが。


「そんなことないよお兄ちゃん、確率は超低いけど異性の一卵性双生児もいても不思議じゃない。文献にも書いてあった」


「適当なこと言うな華菜、その話の文献というかソースはどこだ?」


「異性の一卵性双生児も稀にいるって名探偵コ○ンの75巻に書いてあったもん」


「そりゃ間違いないな」


華菜の部屋にはコナン全巻揃っているので、後で確認しにいこう。


「ということで咲矢の双子の弓花ゆみかちゃんが明後日に来るから、二階の物置になってる部屋の片付けをみんなで始めるわよ」


 母親の指示で部屋の掃除をすることになった。


 正直、女の子と聞いて少し心が楽になった。

 自分にそっくりな男と急に同居することになるなんて、気が気じゃないからな。


 だが、女性となれば話は別だ。俺に似ている女の子が現れるだけだからな……


 俺は鏡を見て自分が女の子になった姿を想像する。

 とてもじゃないが可愛いとは言えない容姿になってしまったが、噂の弓花さんはどんな姿をしているのやら。


 自分に似ているのなら気が合いそうな気もするけど、同族嫌悪みたいな形になる可能性もある。

 不安もあるが興味も尽きない。


 その弓花とかいう双子も俺と同じ気持ちを抱いているのだろうか……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る