ち〇こが出てる勇者

山田 マイク

第1話 ち〇こが出てる勇者の帰還


 勇者が魔王を倒した。


 その一報が入ったとき、世界中の人間が歓喜した。

 勇者は歴史に名を刻み、後世にも語り継がれる伝説となった瞬間であった。


 各国の王も喜び、勇者に会いたいと依頼してきた。

 もちろん、勇者の生まれ故郷、アルトリアでもそれは同様であった。

 

 平民から貴族、王族までも。

 誰しもが、伝説的英雄の帰りを待ちわびていた。


 Ж


「……どうしたらいいと思う」


 魔王城のほど近くの最果ての街・リザーブランド。

 その宿屋にて、俺、勇者リアスは言った。


「そりゃあ……顔は出しておかないとまずいんじゃない?」


 賢者マリアが言った。


「俺も一応顔は出したほうが良いと思う。色々世話になったしな」


 戦士アルゴスが言った。


「そうだよな。勇者として、世界中に平和になったことを伝えないとな」


 リアスは顎に手を当て、ううむ、と唸った。


「でもさ、これじゃ、出すのは顔だけじゃないじゃん」


 魔法使いミミコが言った。


「……そこだよな」


 俺は目を伏せた。


「うん……」

「たしかに、な」

「つか、リアスってこんなおちん〇んだったんだね」


 3人が俺の股間を改めて注視する。

 そしてタイミングを計ったように、はあ、と同時にため息を吐く。


 そうである。

 俺は、死にゆく魔王にとある“呪い”をかけられたのだ。

 その呪いとは――


 股間が丸出しになる、というものだった。


 服を着ても手で隠しても、そこだけは透けて見えるのである。

 どう隠しても、局部がくっきり浮かび上がる様になっている。


 故に。

 俺はさっきからずっと、仲間たちにち〇こを見られている。

 

 みんな、とても哀れな目つきである。

 それが“この現象”に対してのものなのか、それとも、俺のイチモツそのものに対してのものなのか。

 俺は測りかねていた。


 はっきり言って。

 俺はアソコには自信がない。


「リアスはどうしたいの?」


 マリアが問うた。


「どうって……そりゃあ、故郷に帰りたいよ」

「うん。まあ、そうよね」

「でも、こんなんじゃ格好悪くて帰れないよ。違う意味で伝説になっちゃうよ」

「うん。まあ、そうよね」

「だから迷ってるんだ」


 ああっ、と言って、俺は頭を抱えた。

 魔王の野郎、なんて呪いをかけてくれたんだ。


「恥じることはない」

 アルゴスが言った。

「リアス。いや、勇者リアスよ。お前は全人類のために命を賭して戦かったんだ。その状態はむしろ勲章だ。胸を張って帰国すればいい」


 アルゴスはリアスの両肩に手を置いた。


「そ、そうかな」

「そうだ。お前は、誰よりもカッコいい男だ」

「そうか。それじゃあ、一つだけ、質問してもいいか」

「おう。何でも聞け」

「アルゴス。お前、なんでずっと半笑いなんだ?」


 俺が言うと、アルゴスはこらえきれぬというように、ぶふっ、と噴き出した。


「す、すまん――ぶふっ」


 それから背を向け、肩を丸めてぷるぷると震えだした。

 一しきりそうしたあと、涙を拭きながらこちらを見た。


「ともかく、お前は恥ずかしくないんだ」


 アルゴスは息を切らしながら、潤んだ瞳で言った。

 説得力は0だった。


「せめて、もうちょっと立派なお〇んちんだったらねー」


 ミミコが口を尖らせながら言った。


 ぐっはぁ。


 俺はよろめいた。

 魔王のつうこんの一撃よりも効いた一撃だった。


「あら。私は可愛いと思うけど」

 マリアが言った。

「なんだかカブトムシの幼虫みたいじゃない。ちっちゃく丸まってて、とてもキュートだわ」


 ぶっふぉんっ。


 俺は吹き飛んだ。

 魔王の最強魔法よりも身体に響いた。


「マリア。あんたね、おちんち〇が可愛いのはこうしてる時だけよ」

「なにそれ。どういう意味」

「はあ。ほんと、真面目ちゃんはこれだから」


 ミミコは肩を竦めた。


「おち〇ちんってのはね、“使用時”はすごいイカつくなるんだから。その幼虫の中から、エイリアンの顔みたいなのが剥いて出てくるんだから」

「“使用時”ってなに?」

「決まってるでしょ。そりゃあつまり、セック――」


「ミミコ」

 アルガスが口を挟んだ。

「お前、まさか、リアスと」


「まさか。あるわけないでしょ、そんなの」

「しかし、その口ぶり」

「私たちは選ばれた聖戦士。魔王討伐まで、貞操は守るわよ。つか、リアスととかありえないし」

「それじゃあ、どうしてリアスのソレのこと、そんなに詳しく知っているんだ」

 

 それはね、とミミコは人差し指を立てた。

 悪巧みをしているときのような、嫌な顔をしていた。


「旅の途中、リアスが時々、一人でいなくなることがあったでしょ」

「ああ、うん。なんか精神統一したいとかって言っていたな」

「あれ、実はひとりHしに行っていたのよ」


 バレてた。

 俺は耳まで赤くなった。


「まさか」

「まさかじゃないわよ。ほら、だから、マリアにはいつも防御力よりも露出が多い防具を装備させたがってたでしょ」

「た、たしかに。この方が動きやすいだろとか言ってたな」

「そ。あれは、別にマリアの身を案じてたわけじゃないわけ」

「おかしいと思ってたんだ。なぜ、お前たち二人にあんなミニスカートを履かせたがるのか」


 3人がじろりと俺を見る。


 全部バレてた。

 血の気が引いて、俺は青ざめた。


「……みんな」


 俺は立ち上がった。


「俺、やっぱりこのままじゃ帰れない。でも約束する。魔王の呪いを解いたら、必ず国王のところに戻るから。王や大臣への挨拶は、みんなが代わりにやっておいてくれ!」


 それじゃあなっ!


 俺は言うが早いか、踵を返して部屋を飛び出したのだった。


 Ж


 その後。


 世界各地で股間を露出させた男が目撃されたという噂は残ったものの。

 勇者の姿を見たものはいなかったという。


 そして、伝説は始まった――


  

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ち〇こが出てる勇者 山田 マイク @maiku-yamada

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