一章

第1話 二組の双子

 ――三月末。

 俺は突然、知り合いのおじさんから頼みごとをされた。


 四姉妹の用心棒をして欲しいと。


 頼みごとをしてきたおじさんとは、サッカースタジアムで出会った。俺がたまたま見に行った試合で隣に座っていたおじさんとわけあって仲良くなり、その後十試合くらいは一緒に観戦しに行った。


 そのおじさんは、三月に再婚して、ちょうど空き家になっていた俺の家の向かいに引っ越してきた。

 理由を聞いてみたら、「まぁ、再婚したし気分改めってとこか。それに、サッカー見に行きたいときは速攻でお前を誘えに行けるしな」とのことだった。

 観戦帰りに俺を家まで送り届けてくれたことがあるから、空き家があったのも知っていたのだろう。


 気分改めという理由は最もで納得したのだが、それと同時にどんだけ俺とサッカー見に行きたいんだよと思ってしまう。何でそんなに気に入られたのか、未だによくわからない。


 引っ越してきた際には挨拶のために家族総出でうちへ来てくれた。

 その時俺は唖然とした。


 


 しかも、見たことのある顔だった。


 一組は、薄紫色の髪をした蕾來と香花。もう一組は薄桃色の髪をした唐子と杏。おじさんの娘が前者で、再婚相手の娘が後者だ。

 両組共双子で、俺と同じ高校に通っている同級生だった。


 香花は俺が所属しているサッカー部のマネージャーで、あまり話したことはないが最もよく顔を合わせていた。その他の三人は学校でチラッと見たことがあるだけであまり接点はなかった。


 けれど、そんな四人が家族になることに驚いたし、何よりいきなり双子が二組現れるという奇妙な絵面に驚いてしまった。


 唖然としている間に、おじさんはうちの両親と何やら話していた。

 その話が終わると、一人はニコニコと、もう一人はキッチリと、さらにもう一人は目つき鋭く、最後の一人は顔を俯かせながら、挨拶をして帰っていった。


 だが、その数週間後。おじさんと奥さんは北海道へと行ってしまった。

 どうやら、おじさんの転勤が急に決まったらしい。

 「やだよぉ」とか「なんでだよぉ」とか散々嘆いていたが、会社の決定が覆るわけもなく、北海道へと飛んで行った。


 せっかくこれからだというのに可哀想だなと、他人事のように思っていたのだが。全然他人事ではなかった。


 家に残していく四姉妹のことが不安だからと、おじさんは俺に用心棒を頼んできたのだ。


 そんなの、母親が残ればいいのではと思ったのだが、どうやら母親はおじさんと行くことを選んだらしい。再婚してすぐにおじさんとはなばなれというのもなんか可哀想だ。

 それに四人になったんだから協力すれば何とかなるだろと、おじさんと奥さんは楽観的だった。

 でも、女子四人だけというのはそれはそれで不安らしい。高校生に親の気持ちなんてわからないが、そういうものなんだろう。


 おじさんは学校から帰宅して寝るまでの間、四姉妹と一緒に居て用心棒になって欲しいと言ってきた。

 俺を家に上げたらそれこそ危ないんじゃないかと反論したが。


「お前なら大丈夫だ。半年以上の付き合いじゃないか。信用してるぞ」


と、なんの根拠もない言葉だけが返ってきた。

 間違いが起きても知らんぞと内心で思いながらも、間違いは起こらないんだろうという確信に近いものがあった。


 ……過去に過ちを犯した俺にそんな勇気はないから。

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