第22話 キラキラ

「今後、私達の企画には一切の立ち入り禁止とさせてもらいます」


 不貞腐れながら整列している俺達にカバの青年は言い放った。スマ◯ラ化したキルエムオールのライブであわや企画中断まで考えられていたが何とか出演予定の5バンド全てがやり切る事が出来た。しかしながら企画主で大トリを務めたテクニカルデスメタルバンド”インテリ”のリーダーのこのカバ山は風紀を乱した俺達の事を決して許さず、こうして説教を繰り広げているのだ。幸いな事に観客側に怪我人はおらず、カワ谷のみが腫れあがったボコボコの顔になるだけで済んだ。カワ谷は圧倒的に弱い。その事が中断までに至らなかった。


「それでは今日はお引き取り下さい」


 そう言い捨てるとカバ山は背中を向け歓楽街の方に待っている打ち上げ団体の元に歩いて行った。その後ろ姿を睨みつける我らキルエムオール。


「何だあいつは!偉そうによぉ!メタルのライブなんて死亡してナンボだろうが!」*違います

「デスとテクニカルの奴らは意外と真面目な奴が多いからな」

「アイツコレカラ打チ上ゲデ来タ女ヲ引ッ掛ケテセックスデスヨ」

「ま、前が見えない」

 

 メタルを嗜む動物は私生活では真面目な者が多い。デスなどはその暴力的なサウンドは勿論の事、歌詞も残虐、暴力性を伴っているが私生活では真面目に働いていたり実は堅実なカトリック教徒だったり医者だなんて事もあったりもする。テクニカルなんてついた日には神経質もプラスされかねない。そういう中で先程のカバ山は絵に書いたような真面目な動物であるに違いないしセックスも絶対するだろう。


「もういいわ!どっち道車で来てんだから飲めねぇし」

「それもそうだな」

「車ヲコッソリ戻シタラ飲ミニ行キマショウ」

「ま、前が」


 俺達は打ち上げに参加出来ない悔しさとカバ山に説教された事での逆ギレを撒き散らし文句を垂れるも虚しい気持ちしか残らない。もうここにいても仕様がないのでハイエースを止めている駐車場に向かおう…


 そうして駐車場に到着し無言のままハイエースに乗り込み運転席の俺はエンジンをかける。蒸し暑い車内だったから窓を全開、冷房を最強にして駐車場を後にした。

 

 我らがハイエースはビルや街頭の賑やかで鮮やかな光の夜の街を颯爽と走る。未だ会話がなく無言の車内は特別むず痒い気持ちはない。タバコを取り出し火を付けその煙を吸い込むと普段より格別に旨かった。するとポロッと口からその言葉が出てきた。


「楽しかったなぁ…」

「そうだな」

「楽シカッタデス」

「め、目が…」


 それぞれがポツポツと一言を発した後、また暫く沈黙が続いた。しかしながら俺は内から何かが湧き上がって来る物を感じている。そして長い信号待ち、無意識に操作をしたスマホからス○イヤーのレ○ン・イン・ブラッドの再生ボタンを押すとハイエースにエ○ジェルオブデスが爆音で流れ出した。それを皮切りに脊髄反射した俺達の興奮の堰は一気に溢れ出す!


「俺達!ライブやっちゃったんだよなーーー!!」

「うむ」

「次ハモット暴レテヤリマショウヨ!!」

「もう誰にも負けん!!!」

「それにしても客のノリはマジ悪かったな!」

「最初はこんな物だろう」

「演奏モ結構グチャグチャデシタネェ!」

「牛が強かったんだわ!」

「けどさ、後ろの方でちょっと首振ってた奴チラッと見えたんだよ!」

「俺も見たぞ、それと前にいたイタチの女はずっと俺を見ていた」

「羨マシイナー!!オ客の女ノ子ニ手ヲ出シタイナー!!!」

「トカゲの女にも殴られたし!」

「あと俺のギターの音めっちゃ篭ってたな!」

「決めも甘かったしな」

「僕ハ走ッテシマッタ部分が多カッタです!」

「疲れから殴られ続けてしまった!」

「よっしゃ!課題解決していくぞ!」

「練習と経験を積むのみ」

「ソウデスネ!!」

「立ち続けられる圧倒的な体力を手に入れる!」

「次のライブはどうするか!!」

「間髪入れずに行こう」

「ワクワクシマスネ!!」

「次は殺す!」

「酒を飲みながら決めるか!!」

「そうしよう」

「早クビール飲ミタイナー!」

「きええええええええええ!!!!!!」

「ん?おお!ヒョウ美とキツネ子から飲みの連絡来た!アイツらの相手しつつお疲れ反省会と今後のお話だぁ!!その後にキャッキャッウフフのお楽しみだ!!」

「ひゅっひゅーーーー!!!」*3匹


 俺達のハイエースは爆音を鳴らし賑やかな街並みを走る。車内では少年のように未来を話し合うキラキラとした延々と時間が流れていった…



 その後、2匹と合流した俺達は水のように酒を浴びデロデロになる。手に負えないと感じた2匹は俺達を残し帰宅、閉店時間を過ぎても目覚める事がなかったので店員に担がれ外のゴミ捨て場に放り込まれたようだ。そして早朝、目覚めた俺はゴミ袋の上で仰向けになったまま重たい頭を動かし辺りを確認すると朝日が東の空から登り始めている事に気が付きその美しさを見惚れた。それと同時に3匹の気配が足元の方でするので見てみると3匹は未だ気を失っている。また吐いて時間はまだそう経っていないであろう全員ゲロまみれになっている。そして朝日に照らされるそのゲロはそれは大層キラキラと輝いていた。

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