第5話 爆誕
俺達フェスの大爆発から2週間が経ち、俺はこのネズミ総合病院に入院中している。全身骨折の重傷、完治までは三ヶ月かかるはずなのだが、驚くべき回復力で既にギブスは外された。ナースの目を盗んでは、中庭で縄跳びをしているのがバレて怒られる日々を送っている。
他の奴らも重傷であったようだが、こちらも恐るべき回復力を発揮して院内を飛び回っているようだ。
カワ谷は爆発の衝撃からショッキンググリーンが抜け落ち、全身白毛の姿になった。本人曰く”神々しくてカッコいい”との事。
カワ島は爆発の衝撃で右半身が吹っ飛んだが、最新の技術で半サイボーグ化した。本人曰く”アニメみたいでカッコいい”との事。
カワ木はなぜか無傷だったので入院はしていない、毎日果物持って見舞いに来る。
このように3匹にあまり変わりは無い。
変わった事といえば、世界中に蔓延していたキルエムオールウイルスが突然消滅したらしい。
そんなこんなの日常の中、昼下がり病室で漫画読んでたらカワ谷達がやって来て、中庭にタバコ吸い行こうと誘われ行くことに。
「しっかしあれだな!いい天気だな!」
「ソウデスネ!空気ガ美味シイデス!ピーピー、ガッガッ!」
「ミカン食べるか?」
タバコって俺はとうの昔に辞めてたけど、久しぶりに吸ってしまった。カワ谷がくれたものだから自分が吸っていた銘柄とは違うけど上手いなぁ。空に向かって吐き出した煙の行方を俺は呆けた顔で眺めた。
「何ぼうっとしてんの?カワ鍋?」
「タイチョウワルイデスカ?」
「バナナ食べるか?」
「…なぁ、俺はともかく、お前らはこれで本当に良かったのか?死にたかったのに生き残っちまったじゃないか。これからどうしていくつもりよ?」
その問いに3匹はポカンとして数秒フリーズした。そして耐え切れなくなったのか、堰を切って笑い始めた。
「何!?お前本当に死ぬと思ってたん?バカだなぁ!あんなもんじゃ死ぬわけないわ!」
「アハハ!アハハ!冗談ハ止メテ下サイヨ!」
「葡萄食べるか?」
その笑い転げてる3匹を見て本当に殺したくなった。
「まぁ、これからどうするってのは分からんなぁ」
「僕モデス」
「同じく」
俺は怒りをグッと抑え再びタバコをふかした。これからの事なんて何にも思いつかない。こいつらと出会う前だってそうさ、何か始めなきゃと鼓舞していたものの、やった事なんて散歩と壁紙買ったくらいじゃないか。俺は物事を本気で考えてなんかいない中身がスッカスカなカワウソだ。こうしてダークサイドに堕ちていくのだろうか…
いけない考えが頭の中をグルグルと回転していると、カワ谷が遠くの方を指差し言った。
「おい、あの女カワウソのTシャツ見てみろよ」
言われるがままに、その方向にいる女カワウソのTシャツを見た。
「カン○バルコープス…」
デスメタルの重鎮、カン○バルコープス。CDジャケットのその猟奇的、残虐性のトップクラスのイラストは知らない動物なら思わず目を背けたくなるだろう。そんなイラストがプリントされたバンTをブリブリな女カワウソが着ているではないか。見慣れない光景に凝視していると彼女と目が合ってしまった。そしてこちらに一直線に向かってくる。あたふたしていると彼女は話しかけて来た。
「カワ鍋君?」
「へ?」
「私だよ、カワ子だよ!」
「え・・・カワ子ちゃん!?」
なんて事だ、この子、カワ子ちゃんは俺の高校時代の同級生で憧れの女の子だった。文武両道、誰にでも優しく接し世代問わず人気を博していた。高校を卒業をしてからは会う事なんてなく10年以上での再会だ。思いがけない出来事に興奮していると他3匹は俺を白けた目で見て来た。
「カワ鍋君、ひどい怪我だね。包帯グルグル」
「いやいや全然大丈夫!明日にでも退院出来るくらい元気だよ!カワ子ちゃん、そのTシャツ、カン○バルコープスだよね?」
「え!そうそう!私こっち系大好きで!インパクトすごいから街歩くと凄い顔で見られるけどね」
「えー!意外だね!他には何が好きなの?」
「ディー○イドとか前まではデスメタルだったけど今はP○P、コ○ルドレイン、プレ○ズ、アッ○ィラとかが大好き!」
「本当に!?俺も大好きなんだけど!」
この幸福な状況の中、3匹の視線が気になったがシカトした。
後一歩でダークサイドに堕ちていく俺を、いとも簡単に救い上げてくれたカワ子ちゃんは正に女神だ。
俺はこれから本気で生きていこうと決意した。
「カワ子ちゃん、もし良かったら今度ご飯でも・・・」
「あ、カっく〜〜〜ん」
俺の話は遮られ、彼女は側方から向かってくる男カワウソの方へ走っていった。
「・・・そちらの方は?」
「彼氏のカっくん!P○Pもコ○ルドレインも何もかも全部教えてくれたの!この前のライブでケガしちゃって今日まで入院だったんだよね〜。もう心配したんだから〜」
「うす、どうも」
先程の決意はガラスのように粉々になった。”バイバイ!”と最後に彼女と彼はチュッチュしながら去っていく。
哀れな姿に同情した3匹が俺の肩を叩いて言った。
「ドンマイ」
「すまんな」
「コレカラドウシマス?」
「バンド組もう」
「名前は?」
「キルエムオール」
メタルバンド、キルエムオール爆誕。
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