感染、8月のモデル

アマイロノソラ

1、



 これはあくまでも、四月の私の妄想でしかない。希望的観測にさえ至らない話。



 夏。

 部屋の空気に隅々までうんざりして、私は家を出た。しばらくぶりに吸う夜の空気は湿り気ばかりで、白いTシャツに点々と汗が浮かび始めていた。住宅街に灯りはあっても、道に人の気はほとんどない。


 夏になると、悲鳴を上げていた経済に気を向けなければならなかった。国は、若い大人から中心に自粛を解除し始めた。集団免疫という言葉を根拠に。

といっても、それについての根拠が確証に至っていないため、私を含めた学生の休校は続いている。


 最初は『ステイホーム』が耳によく染みていたが、しばらくたつとニュースキャスターの「おはようございます」ぐらい耳に残らなくなった。なんだか義務的な感じがする。


 家から歩いて五分の場所に駅前の繁華街がある。中学校までの同級生なら、電車を利用しなくてもここで楽しめるのがいいところだ。高校に入ってからは三駅先の似たような街並みでよく遊んでいた。しばらく、高校の同級生には会っていない。


 あそこは、人で溢れ返っている。


 8月を迎えてようやく、といった風で飲食店は営業を始めた。確かに、長すぎる

空白ではあった。


 四月のころならネットで批判を叩きつけられるような光景。世界が慌てふためる前なら見慣れていた光景だ。人々は陽気に店と店の間を歩き回る。


 私が見下ろすくぼんだ場所にその光景がある。

 私は光景をくぼみの上、へりから眺める。人々は、この坂を駆け降りるようにしてくぼみに集まり、酒を呷って騒いでいる。


 三月の終わり、飲食店などの自粛を呼び掛けていた。営業していると、人はどうしても集まってくるものだから。とのことで、どこかで耳にしたその言葉は正しかったらしく、私の視界の限りで営業している八割ほどの飲食店はそこそこに人が見えた。


 まあ、そういうことだ。


 人々は生産に合わせて段々と購買を促され、八月の今、あの三月の頭のころのように鈍った危機感で日本人は生きている。大人のそういった素振りを見れば、中高生はそれを言い訳に外へ出始める。SNSでは楽しそうな写真で溢れるようになってきた。鶏か卵が先かなんて知りようがない。

 

 私が外に出た理由も彼らと大して変わらない。別に、終息したわけではない。

休校措置は外れないままだ。


 まあ、そういうことだ。


 そんなことを考えながら光の方を見下ろしていると、

 急に、土砂が落ちるように雨が降り出した。


 ゲリラだ。

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