さらさらと、枕草子

みおつくしのしずく

春はあの子と、

春はあけぼのと言うけれど、私は

春のあけぼのに立ち会ったことがない

いつだって眠たいから


夜更かししちゃうことはあるけれど、それは

あくまで夜が続いてるだけ

私にとって、それは1日の始まりじゃあ

なくって

もうこどもじゃないから知ってる、時間は

ずっとつながってて毎日はその繰り返し

だから夜の地続きは朝だってこと

でもきっちり分けたいの、夜は夜、朝は朝

分かるかなあ、この感じ


あまい風がふわあってほっぺたをくすぐった

教室の窓は開け放されてる

ほらまただよ、お弁当のふりかけのごまが

奥歯に鎮座ましまして

それを舌で転がしながら船をこぐ

あの子の朗読はいつもいい船頭なの

家族と、友達と、あの人といるときはどんな

声なのかしら


と、

ひときわ強い風がカーテンを巻き上げ、あの子

の机をさらっていった

思わず顔を上げたら

左斜め前

ふわっと前髪もさらわれ

赤ちゃんみたいな生え際

そして少し下がったやわい曲線の眉

それと

光を受けたさざなみを閉じ込めたおっきな瞳

視線がかちりと合わさったとき


ああそうか

私にとっての春は

春はあの子と、





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