第18話「レベル99VSレベル999」
★★★
「ちっ……やっぱりリア充だよなぁ、こいつら……」
「……リア充冒険者は……爆発すべき……むしろ……わたしの黒魔法で爆発させたい……ぎりぎり」
水晶でルーファとリイナの動きを監視――というよりは、ほとんどストーキングしながら――元非リア充冒険者・現魔王と魔王の側近は歯噛みしていた。
「……というか、このリイナって子、ルナリイに顔が似ている気がするんだよな……性格はだいぶ違うけど……」
「……。それは、わたしも思った……もしかすると、アーグルとルナリイの子ども…………じゃないの……?」
水晶を使って様子を見始めたのはふたりが王都についてからだ。それ以前のことは映像としては見ていない。
ただ、報告では元冒険者が経営する宿屋の娘と息子ということはわかっていた。
「えっと、ミナミノ村だっけか? ちょっと覗いてみるか?」
「ん…………」
ミカゲは水晶に手をかざして、意思を注ぎこむ。
そうすると、自分の見たい場所を覗くことができるのだ。
まずはミナミノ村を上空から俯瞰したような映像になり、続いて、宿屋の正面――そして、宿屋の内部が映しだされていく。
映った場面は、三十代中盤ぐらいの女性が男性を膝枕しているところだった。
女性は微笑んで優しく頭をなでており、男は気持ちよさそうに眠っていた。
「うおっ! この美人は……ルナリイだよなっ!? それに膝枕されて、だらしねー顔してるむかつく老け顔野郎はアーグルのやつかっ!」
「っ……いきなり……ラブラブっぷりを見せつけるなんて……これだから、リア充は爆発すべき……ぎりぎりぎり……」
ふたりの予感は的中した。
十五年の歳月が流れても、面影は残っている。一緒に一年ほど冒険していた仲間の顔を見間違えるはずもない。
「あー、やっぱり、ふたりはあのままくっついたんだなぁ……」
「……いつもわたしたちに戦闘を任せて……イチャイチャしてたから……」
なんとも微妙な気持ちと雰囲気になる元勇者と元黒魔法使いだった。
仲間の幸せは祝福すべきなのだろうが、こちとら十五年もの間、『無』であった。
その間の記憶もないし、気がついたら魔王と魔王の側近となって復活していた。
つまり、青春とも恋愛とも幸せな家庭とも無縁の人生であった。
「はー……なんか本当に複雑な心境だな……そっかぁ……そりゃあ十五年も経てばなぁ……子どもぐらいできるよなぁ……というか、あのリイナって子と今の勇者の年齢って同じぐらいじゃなかったか?」
「……諜報担当の部下からの報告では……第九十九代勇者は、もともと村外れに祖父とともに住んでいたらしい……それで、祖父が死んで天涯孤独となったところを宿屋で引き取られたみたい……」
「あー、ルナリイやアーグルなら喜んで引き取りそうだな……」
「ん……」
ただのリア充というだけでなく、アーグルとルナリイは人格者でもあった。
戦闘狂や魔法狂のふたりとは違って善人であり聖人なのだ。
もともとアーグルは孤児院暮らしから拳一筋で成り上がった格闘家であり、ルナリイは修道女だった。ふたりとも困っている人を放っておけないタイプで、稼いだお金を教会に寄付したりしていた。
「……ほんと非の打ちどころのないリア充だよな……」
「ん……」
なんだか、自分たちが本当にどうしようもないクズに思えてくるから困る。
「というか……俺たちと戦う勇者が、あいつらの子どもだなんて、やりにくくてしかたないな……」
「ん……ノリノリでリア充勇者パーティを爆滅しようと思ってたのに……元仲間の子どもとなると、気が引ける……」
意気消沈するリュータとミカゲ。
そこで――唐突に、虹色の光が魔王の間に拡がり始めた。
「うぉっ! なんだこりゃ!?」
「……っ、黒魔法? 白魔法? ……ううん、これは……どちらでも、ない……?」
驚くリュータとミカゲをあざ笑うかのように七色の光は龍のように荒れ狂い――最後には、すべてが衝突して爆発。
「うおおおおおっ!?」
「っ……なに……? どうなっ、たの……?」
光の奔流がおさまって、そこに立っていたのは少年だった。
華奢な体に、不敵な笑み。七色の光のオーラをまとっており――背中には白銀の翼が生えていた。
「なんだてめぇは!」
リュータは魔王の剣を抜刀し、謎の侵入者に対峙する。
「……こんな魔族、いない、はず……あなたは、何者……?」
そんなふたりに対して、その少年はさらに笑みを深める。
「やあ、はじめまして。第九十九代魔王と魔王の側近……ううん、元勇者と元勇者の仲間の黒魔法使いって言ったほうがいいかな?」
生意気そうな少年は、神経を逆なでする軽薄な口調で声をかけてきた。
「事情を知っていやがるとは……おまえ、まさか神か?」
油断なく剣を構えながら、リュータは訊ねる。
その答えに、目の前の少年は満足げにうなずく。
「うん、ご名答だよ。僕が神だ。どうだい、魔王生活楽しんでもらっているかな?」
「……あなたが……わたしたちを魔族に転生させたの?」
「ふふ、そうだよ。神である僕が君たちを魔族に転生させて、魔王を勇者に転生させた。元魔王勇者が勝ったら、元勇者魔王はかつての仲間の子どもたちに殺されることになる。逆に、元勇者魔王が元魔王勇者パーティを倒したら、かつての仲間の子どもたちを殺すことになる。どちらが勝っても悲劇になるわけだ。どうだい、いいアイディアだろう?」
「ぜんぶてめぇのしわざか!」
元勇者魔王リュータは剣を握る手に力をこめた。
「……神なのに……なかなか、外道……」
ミカゲも手に魔力を集中し始める。
だが、神はそんなものを歯牙にもかけない。
「僕は退屈だったんだ。いつもいつも毎回毎回、九十八回も勇者が魔王を倒して終わり。なら、今回はいつもとは違う趣向を凝らしてみてもいいんじゃないかって思ってね。君たちが第九十八代魔王と激闘を繰り広げたときに相討ちになるタイミングで神の力を使って干渉してみたのさ。そして、元魔王を孤児のルーファとして転生させて、君たちはとりあえず魂を束縛して十五年待ってもらった。ああ、けっこう大変なんだよ? 魂を損ねず、そのままの形で維持することは。だから、君たちは見た目は魔族風に少し変わってるかもしれないけど、心も体も当時の年齢の十七歳のままだ。もっとも、魔王や魔族に年齢なんてあまり関係ないけどね?」
神は種明かしをするのが楽しくてしかたがないといったように笑みを浮かべ、饒舌にしゃべり続ける。
「ちっ、おまえのせいで俺の人生設計が狂ったじゃねーかっ! 本当なら魔王を倒した超ツエ―勇者として王都に凱旋して全世界の美女からモテモテ! 田舎に豪邸を建ててスローライフでハーレムライフなセカンドライフを送ろうとしてたのに!」
「……リュータ……そんなこと考えてたの……?」
ミカゲがかつての仲間を白けた表情で見つめる。
「い、いいじゃねーか! さすがの俺も魔王を倒したあとは戦闘人生をひと休みしようって思ってたんだよ! まぁ、そんな生活に飽きたら新大陸に冒険に行こうとは思ってたけどよ!」
「わたしも……まだまだ黒魔法を極めたかった……でも、魔王の側近になれたおかげで、あらゆる黒魔法を使えるので、夢は叶えられたけど……」
「ふふ、まぁ、魔王と魔族の暮らし、せいぜい堪能してくれればいいよ。最後に勇者を倒すのか、倒されるのか、その決断を楽しみにしているから」
軽薄な笑みを浮かべる神に――元勇者魔王は無造作に斬りかかった
まったくのノーモーションでの斬撃。この一撃を受けとめられるものは今の世界にはいないはずだが――。
しかし、神はそれを人差し指で受け止めた。
「究極黒魔(くろま)、爆炎災禍炎龍陣……」
そこを間髪入れずにミカゲが究極黒魔法、地獄の火炎を超至近距離でぶっ放した、が――七色の光に包まれた神の前に地獄の黒炎は一瞬で消し飛ばされた。
「はははははっ! やっぱり君たちは物騒だねぇ♪ いきなり神を殺そうとするなんて!やっぱり僕の見立ては間違ってなかったよ! 勇者やただの黒魔法使いにしておくにはもったいない外道っぷりだ! 魔王と魔族こそふさわしい!」
「おまえには言われたくねぇな。外道神」
「……強いものがいたら戦いたくなるのが勇者の本能……すごい魔法を覚えたらぶっ放したくなるのが黒魔法使いの本能……なにもおかしなことはない……」
戦闘狂の元勇者と魔法狂の元黒魔法使いは往年の連携プレイを見せたが、神の前には通用しなかった。
「ま、君たちがレベル99なら、僕はレベル999だ。上には上がいることをこれでわかってもらえただろう? ふふふっ♪ それじゃ、せいぜい元魔王勇者と殺しあってくれ。僕はそれを天界から眺めさせてもらうから」
笑みを浮かべるとともに神の体から七色の光が迸り――爆発的に広がるとともに消えていった。
「ちっ、いちいち派手な現れ方と消え方しやがって……」
「ん……わたしも……ああやって出没したい……」
静寂が訪れた魔王の間で、リュータとミカゲは忌々しげに神のいた場所を睨みつける。
バトル狂いの元勇者と元黒魔法使いにとって、敗北はなによりも悔しい。
「ったく、厄介なことになったぜ……レベル999だぁ? そんなのチートすぎるだろ」
「……レベル999で使える破壊系の魔法が気になる……わたしも、好き放題神の魔法をぶっ放したい……」
新たなる難題に直面して、魔王城の夜は更けていった――。
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