第14話「側近の正体~焼き討ちは女の子の浪漫(?)~」

「うん、うまいなこのイチゴのショートケーキ。こんなものを魔王になってから食えるとは思わなかったわ!」

「魔王様に悦んでいただけて、恐悦至極でございます!」


 最初に見たときは不気味な雰囲気の側近だと思ったが、なかなか献身的な魔族のようだ。

 これから長くやっていくわけだし、こちらの事情を話してもいいと思えた。


「……というか、やっぱり側近のおまえには話してくわ……。実は俺、転生前は元人間だったんだ。前代の魔王の生まれ変わりとかじゃない」


 元勇者だと言うと、どういう混乱が起こるかわからないので、とりあえず元人間であることをカミングアウトすることにした。


「魔王様もそうなのですかっ!?」


 側近は手に持っていたフォークを取り落とした。


「え、魔王様もって……まさか、おまえも転生前は人間だったのか?」

「あっ! そ、それは……その」

「秘密にしておくから、言ってみろ」

「そ、それでは……その、はい……私も人間でございました」


「おおっ、そうなのか! いやぁ、よかった! これで元人間同士普通の会話ができるな! マジで助かった! んじゃ……もっとバラしちゃっても大丈夫かな。俺、元勇者だから」

「えっ……!」


 側近は絶句して、顔を元勇者魔王に向ける。


「ははっ、驚いたろ? まさか魔王が元勇者なんて!」

「…………っ…………リュータ……なの……?」


 元魔王勇者を見て、側近はこれまでの言葉づかいとは違う口調で話してきた。

 元勇者魔王――勇者時代の名「リュータ」――は目を見開いた。


「俺のことを知ってるのか?」

「……知ってるも、なにも……」


 側近はフードに手をかけると、うしろに向かって脱いだ。

 それとともに、闇で隠されていた顔が露わになる。


 そこから現れたのは――前髪が長くて表情がわかりにくい少女。

 かつての仲間。勇者パーティの黒魔法使いミカゲだった。


「ミカゲッ……!? ミカゲじゃねぇか!?」

「……うん……わたし……」


 顔を覆っていた闇が消えるとともに、声も自信なさげな暗いものに変わる。


「えええっ、なんでミカゲが魔王の側近になってるんだよっ!?」

「それは……わたしだって……知りたい……。なんで……リュータが魔王になっているのか……意味不明……びっくり……」


「というか……ミカゲは顔そのままなんだな……?」

「リュータも……顔色が黒っぽくなって……魔のオーラを帯びているけど……でも、顔……そんなに変わってない……かも」


「えっ、そうか?」

「うん……勇者時代のリュータを五歳ぐらい老けさせて……ちょっと邪悪っぽくした感じ……元から、ちょっと目つき悪かったし……」


「……俺、そんな目つき悪かったか?」

「うん……魔物とか魔族と戦っているときのリュータ……魔族を殺すのが趣味の人みたいで……ちょっと怖かった……わたし、いつも……少し引いてた……」


「マジか……」

「うん……」


 かつての仲間から殺人鬼でも見るような目で見られたことに元勇者は多大なる精神的ダメージを受けた。ミカゲのことを魔法狂だと思ってたが、自分もそんなふうに思われていたのだ。


「というか、なんでミカゲはそんなに口調変わるんだよ? 最初からその話し方なら、早く気づけたかもしれないのに」

「っ……そ、それは……」


 そこでミカゲはうつむいた。

 そして、プルプルと震え始める。


「えっ、どうした? トイレか?」

「ち、ちがう……デリカシーのないこと……言わないでっ……」

「じゃ、なんだよその震えは? 寒いのか?」

「こ、これは……恥ずかしい、から……」


「恥ずかしい?」

「……ん。だって……せっかく魔王の側近に生まれ変わったんだから……その役を堪能してみようかな、って思って……わ、わたし……黒魔法使い時代は……こんな、根暗キャラ、だったし……」


「……ああ、確かにミカゲって不愛想で不気味な無口キャラって感じだったよな……もしかすると、俺とこんなふうに会話するのって初めてかもな」

「ん……なんか、最初のほうに緊張してあまり話さなかったら……すっかり、そういうキャラが定着してしまったから……急に饒舌になるのもおかしな気がして……無口キャラを通し続けていた……」


「そうだったのか……。すまん、なんか黒魔法使いって暗いイメージがあるから、そんな性格なのかなって思って、特に気にしてなかった……」

「……リュータは……戦闘狂でレベリング中毒者だったから……あまり仲間のほうを気にしていなかった、から……」


「……あ、いや……それは」

「おかげで戦闘MVPはいつもリュータばっかりで、わたしたちとリュータのレベル差がかなりあった……だから、冒険の終盤、わたしたちはずっと苦労しっぱなしだった……わたし……覚えたい魔法あったのに、最後まで覚えられなかった……」


「たいへん申し訳ありませんでしたぁ!」


 元勇者魔王は元勇者パーティの黒魔法使いの女の子(いまは側近)に頭を下げた。

 確かに独断専行して自分ばかりおいしいところを持っていっていた自覚はあった。


 だが、自他ともに認める戦闘狂でレベリング中毒の勇者はバトルでMVPをとることをやめられなかったのだ。


「ん……謝ってくれたから、許す……そもそも……その使いたかった魔法……魔王の側近は覚えていたから、実は隠れて使ってみた……超高等火炎魔法……爆炎災禍炎龍陣……実に、すごい魔法だった……」


 側近――いや、ミカゲはうっとりした表情で爆炎災禍炎龍陣の威力を思い出しているようだった。


「ミカゲは火の魔法大好きだったもんな……」

「ん……炎を見ていると落ち着く……焼き討ちは女の子の浪漫……」

「そ、そうか……そういうものなのか……」


 戦闘狂の勇者のパーティらしく、ミカゲも魔法狂なところがあった。ちなみに勇者パーティ時代、リュータに次いで魔物を屠ってきたのはミカゲである。


 ミカゲは派手な全体魔法が好きだったので、先制攻撃的に相手にダメージを与える役目が多かった。そのおかげで戦闘MVPをとりやすいトドメはあまりさせなかったので、トドメばかりさしていたリュータほどレベルは上がらなかった。


「この側近……ありとあらゆる黒魔法を使えるから……楽しい……」


 ほかにもいろいろと魔法を試したようで、ミカゲは満足げに口元を歪めていた。


「そういや……アーグルとルナリイのやつらはどうしてるんだろうな? 俺たちのように転生してるのか?」

「……あんなリア充カップルのことなんて……ほうっておけばいい……」


「まぁ、俺とミカゲは戦闘第一だったけど、あのふたりはよくもわるくも普通の人間というか、常識人だったよな……」

「……わたしたちは、戦闘がないと生きていけないけど……あのふたりは、たぶん、違う……平和になったら、宿屋でも開いてのんきに暮らしてそう……」


「あー、そんな感じかもなぁ……えっと、なんだっけ、『戦わずにすむのが一番だぜ!』とか格闘家のくせに言ってたよなぁ、アーグルのやつ……。というか、あいつ顔も言動もおっさんくさくて同じ年齢の気がしなかったよなぁ……」

「ルナリイも……『平和が一番です~』とか、ぬるいことを言っていた……これだから、白魔法使いは……」


 元勇者パーティでありながら、ふたりは十分に魔王と側近に近いメンタリティの持ち主なのであった――。

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