第7話「強制戦闘イベントと勇者になって初めてのレベルアップ」
☆☆☆
「きゃあっ、ルーファっ! 見てっ、魔物がこっちにやってくるっ! なんでっ!? 村の中にいるのにっ!」
「これは強制イベントだな。ここで魔物とのバトルというわけか。となると、魔王が噛んでいるということだな」
元魔王勇者も魔王時代には勇者の進撃にあわせてそれぞれ強制イベントとそれに登場させる魔物や魔族を用意していた。
このイベントバトルに選ばれることは魔物にとって大変な栄誉なことであり、ここで戦死しても(というか絶対に戦死するが)、遺族には莫大な金銀財宝や闇のアイテムが渡される。
もっとも、魔王が倒された時点で魔物たちも消え去る運命なのだが、それでもこのイベントに出ることは種族の誉であり、子々孫々に語り継がれる武勇伝になるのだ。
戦闘種族の魔族にとって、これほど名誉なことはない。
「ど、どうしよう、ルーファっ!? あたしたちレベル1のままだよっ!」
「強制イベントとなると逃げられぬか……。むう、あくまでも我を戦いの道へ引きずりこもうというのか……」
怪鳥は空から急降下して攻撃してくる。
それをどうにか左右に散ることでルーファとリイナはよけた。
素早さがレベル1なので、本当になんとかかろうじて、といったところだ。
「こうなったら、やるしかないか」
この村に辿りつくまで一切使ってなかった短刀を鞘から引き抜く。
現在のHPは18。
怪鳥相手では、攻撃を二回くらったら戦闘不能になる。
運悪くクリティカルヒットになったら一撃で終わる。
「ギシャアアアアア!」
怪鳥は攻撃的な叫び声を上げながら、再び急降下攻撃をしかけてくる。
ふつうはこんな厄介で面倒くさい敵は序盤のエリアでは滅多にエンカウントしない。
確率としては遭遇率1%ぐらいだ。レベルが5ぐらいあって、素早さが上がってきてからようやく渡り合えるといったところ。
「運が悪かったな。我は祖父とともにさまざまな獣と渡り合ってきた。勇者になってからのレベルは1だが、狩人としてのレベルは20はある」
そう、元魔王勇者は温室育ちの勇者ではない。ただの平民でもない。村外れで生きるために山に入って獣と戦ってきたのだ。
そして、なにより――すべての魔物を統括してきた魔王である。
ゆえに、すべての魔物のステータスと弱点を知り尽くしていた。
「そこだっ!」
元魔王勇者は怪鳥の急所をあやまたず短刀で切り裂いた。
血しぶきが上がる。
正確無比な、カット・スロート。
鎧代わりになっている羽毛のない喉を狙ったのだ。
会心の一撃がクリティカルヒット。それ即ち――死。
レベル1の元魔王勇者は一撃で怪鳥を屠ったのだった。
戦闘終了とともに、元魔王勇者の体が一瞬まばゆいばかりの光に包まれる。
レベルが上がったのだ。
しかも、消えたそばから再び発光。それが何度も連続していく。
その数、あわせて5回。
つまり、一度の戦闘でレベルが6まで上がったのだ。
ついでに、リイナの体も光に包まれてレベルが4まで上がっていた。
なにもしてないが、おこぼれをもらったということだ。
ただ、ほとんど活躍しなかったので経験値の割り振りは低い。それでもこのエリアトップの敵を倒したので、経験値は大きかった。
そして、魔物が黒い光に包まれて霧消するとともに、その場に黄金に輝く金貨3枚と「素早さの羽」を二枚落とした。
「あっ♪ やったー! お金とアイテムゲットー!」
この冒険で初めてリイナが笑顔を見せる。
「ふむ……しかたないとはいえ、殺生をしてしまったな……」
そうは言うものの、レベルが上がるということは悪くない気持ちだった。
体に力がみなぎり、体が軽くなり、強くなったことを嫌でも自覚させられる。
そして、新たに火の魔法を覚えた。
(そうか、これがレベルアップというやつか……)
レベル99だった魔王時代には一度として味わえなかった、自分がリアルタイムで強くなる感覚。
(これは勇者が狂ったようにレベリングをしていた訳がわかる気がするな……)
魔王時代は、同じところをぐるぐる回って魔物を虐殺しまくる勇者を見て殺人鬼や強盗にしか見えなかったが、今ならその気持ちが理解できた。
なにごとも経験してみないとわからないものだ。
経験値とはよくいったものである。
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