第6話「【非暴力】聖人思考の元魔王勇者【非服従】」

☆☆☆


「ねぇっ! なんで魔物と遭遇しても戦わないのよっ!?」


 これまでの道中、何度か魔物と遭遇したが、勇者ルーファはひたすら逃げることを選択していた。 そうなると、当然、経験値も上がらないし、お金も増えない。


「だから言っておるだろ、無益な殺生を防ぐためだ」

「それじゃ、冒険の意味ないでしょ!? レベルも上がらないしお金も増えないんじゃ楽しくないじゃない!」


 リイナはぷりぷりと怒っている。

 そりゃあ、そうだろう。どこの世界に魔物を一切倒さない勇者がいるだろうか。


「憎しみの連鎖は断ち切らねばならない。そのためには非暴力非服従だ」


 もはや元魔王勇者の思考は聖人だった。


★★★


 そのやりとりを茂みから眺めていた元勇者魔王は呆然としていた。


(なんじゃ、こいつは……)


 これでは勇者時代に嬉々として魔物を殺しまくりレベル上げと資金稼ぎをしまくっていた自分が殺人鬼の銭ゲバみたいじゃないか。


(というか、あの口調と顔……おそらく、魔王だよな……)


 あの悟りきった思考と口調は間違いない。


 側近が調べたところでは勇者になる前は宿屋を手伝っていたらしい。

 その前は老爺とともに山で獣を倒したりして生計を立ててきたはずだ。ということは、これまで殺生をまったくしないというわけではないはずだが……。


「魔物なんてほとんど獣みたいなもんなんだから、やっつけちゃえばいいじゃない!」


 同行する少女も勇者に力説している。


(だよな……)


 まったくもってその通りだと、元勇者魔王も思った。


「第一、ある程度レベル上げてお金を稼いで装備を整えないと魔王のいる城まで辿りつけないでしょっ!」


 これまたド正論だった。


「うぐっ……」


 少なからず元魔王勇者にもダメージがあったようだ。


(ったく、本当にどうしようねぇな、あの世間知らずの元魔王)


 いまなら姿を現してレベル1のままの元魔王勇者を倒してしまうこともできる。

 しかし……それではあまりにも面白くない。


 せっかく魔王になったのだから、魔王生活を堪能したくなってきた。


(よし……んじゃ、その偽善者っぷりを晒してやがる元魔王勇者の野郎に冒険の厳しさってやつを教えてやるか!)


 元勇者魔王は魔王の力を使って、この周辺にいる配下の魔物を呼び寄せることにした。


 通常は村にまで魔物は入ってこないのだが、魔王の指示があれば別だ。まぁ、こちらの言うことを聞かずに村に押し入る知能の低い魔物もいるにはいるが。


 ともかく、元勇者魔王はこのエリアで最も強い怪鳥を呼ぶことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る