★フェアEND 【師弟関係】
「クルス殿……」
涙で霞んだ視界の中にはフェアがいた。
かつて敵対した時期はあったものの、今では師弟の間柄となった彼女。
常に凛としているその姿に、クルスは自然と頼もしさを覚えた。
「私の胸でよろしければ……」
フェアは彼をそっと抱き寄せた。クルスもまたフェアへ身を委ねる。
夕日が水平線の向こうへ沈み、夜が訪れる。
クルス達は絶海の孤島へロナを手厚く葬ると、そこを後にするのだった。
⚫️⚫️⚫️
東の魔女は滅び、聖王国には再び平穏な日々が訪れた。
誓いを交わしたクルス達だったが、ロナを失ったことにより、それぞれの気持ちに隔絶が生じる。
「フェアさん、先輩のことをお願いします……」
ビギナはそう告げて、ゼラと共に旅立ってゆく。
これが最後の別れであり、これっきりクルスはこの二人と会うことは無かった。
「帰りましょう、クルス殿。私たちの樹海へ」
「……」
フェアのガラス細工のように繊細な指先が、クルスの手を優しく取る。
クルスはフェアに連れられ、セシリーやベラと共に、外の世界へ別れを告げて、樹海へ戻ってゆく。
そして半年が経過した――
「はぁっ!」
フェアはサーベルを繰り出し、激しく切りつけてくる。
それを短剣でいなしたクルスだったが、手に激しい衝撃を感じ、一瞬怯んだ。
すると彼女の表情が僅かに緩む。
隙だと判断したクルスは、体勢を立て直し、足払いを繰り出す。
「うわっ!?」
フェアは情けない声を上げながら転び、盛大に尻餅をつく。
「ポーカーフェイスをしろと、何度言わせるんだ?」
「も、申し訳ありません……」
クルスはフェアの喉へ鋒を突き付けつつ、そう言う。
普段は鉄面皮だが、こういう時はしおらしい表情をするフェアが、クルスは案外好きだった。
この半年、クルスはロナのことを忘れるべく、ひたすら体を動かすことに専念した。
そんな彼の行動に、師弟の契りを交わしたフェアは、飽きもせずに付き合ってくれた。
日々、互いに武器を振り、野山を駆け抜ける日々は考える暇を与えず、クルスの中かロナの存在を薄めてゆく。
そして気がつけば、ポッカリと空いた心の穴の中には、フェアがいるような気がしてならなかった。
ロナを失ってからフェアは片時も離れず、クルスと時間を過ごしてくれた。
彼女がいなければ、クルスはずっと抜け殻のままだったと改めて感じた。
ロナを失った傷跡はまだ時々クルスを苦しめている。
しかしいつまでも立ち止まっている訳には行かない。
自分を立ち直らせるために、一緒に修練に励んでくれた、彼女のためにも。
「ク、クルス殿……何故、じっと私の顔を見ておいでか……?」
フェアは傘の下で頬を赤く染めている。愛おしさが込み上げてくる。
「フェア」
「は、はい?」
「ありがとう。君は最高の弟子だ。そして君さえ良ければなのだが……これからもどうかよろしく頼む」
クルスは手を差し伸べ、フェアはしっかりと握り返して来る。
「私も同じ想いです。貴方が師であり続けてくれるならば、私はいつまでも、どこまで付いて行きます。あなたに出会え、こうして日々手ほどきを頂いていることを誇りに思います」
彼女は鉄面皮を崩し、笑顔を浮かべる。
まだ僅かにあどけなさが残るその表情に、クルスは胸を高鳴らせるのだった。
フェアEND
*次の更新がトゥルーエンドです。お楽しみに。
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