第106話赤と青の闘争(*ゼラ視点)




 巨大ラフレシアの蔓はゼラやベラ、そして1000のビムガンの援護を受けて、着実に東の塔へ近づきつづあった。


(また何か来たわね!)


 巨大ラフレシアを操っているセシリーは新たな脅威を蔓を通じて感じ取る。

その脅威に向かったのは、ビムガンのゼラ。


 そしてその相手とは――


「ベラっち、トリアはウチに任せるっす!」

「おう! ゼラねえ様も気をつけるのだぁ!」


 ベラは根と共に先へ進んでゆく。

 剣を打ちあった赤と青の剣士は、刃越しに互いに睨み合う。


「さぁ、今日こそとっ捕まえてやるっす、トリア・ベルンカステル!」

「くっ……邪魔だぁー!」


 五魔刃四ノ刃――吸血騎トリア・ベルンカステルは怒りに満ちた声を上げ、ゼラを蛇剣で振り払う。



⚫️⚫️⚫️



 ゼラへ怪しく紅く輝く刃が、蛇ようにうねって襲いかかる。


 血晶けっしょう魔法と蛇剣じゃけん

トリア・ベルンカステルは魔神皇が生み出した、驚異の力を駆使して、ゼラへ襲いかかる。


 しかしゼラはここ一年で、様々な死線をくぐり抜けてきたビムガンの猛者。

鈍重な大剣をリズミカルに扱って、トリアのそれを弾き続けている。


(さてさて、どう攻めてやるっすか)


 ゼラは蛇剣を弾きつつ、機会を伺う。

その時、これまでとは少し違う手応えが、大剣の柄から伝わる。


 打ち合いのリズムが狂い、大剣がわずかに空振る。

 剣の向こう側でトリアが勝ち誇ったかのような笑みを浮かべた。


「かぁぁぁーっ!」


 トリアは吸血騎らしく長い犬歯を覗かせ、ゼラへ飛びかかる。


「させんっす!」 

「ぐはっ!?」


 ゼラは寸前のところでトリアの腹へ拳を叩きつけた。

 拳を受けたトリアの体が、大きくくの字に折れ曲がり綺麗な弧を描いて飛んでゆく。

 

「ひゅー危なかったっす。ウチ、首筋は弱いんっすよねぇ」

「おのれ、味な真似を……」


 よろよろとトリアは起き上がった。通常の人間ではビムガンの拳には耐えられない。死んでもおかしくは無い筈。しかし相手はビムガンと同じく人間よりも遥かに強靭な体をもった吸血騎。一筋縄では行かない脅威の敵。

 そして戦闘民族の血が騒ぎ、闘争本能が高まっているゼラにとっては、望むべき相手でも会った。


「死ねぇぇぇ!!」

「死なんっす!!」


 再度、蛇剣と大剣の打ち合いが始まった。

 蛇剣が鞭のように動き視界外から迫るも、ゼラは人よりも優れた聴覚で刃が引き裂く空気の音を聞き取り、見ずとも大剣を掲げて一撃を防ぎきる。

 やはりトリアの腹へ、思い切り拳を見舞った影響か、蛇剣の動きに先ほどまでのキレがない。


「さぁさぁ、どんどん来るっす! ウチを楽しませるっす! それともお腹が痛くて本気出せないっすかぁ!?」

「お、おのれ……! こうなれば!」


 トリアは打ち合いを止めて、大きく後方へ飛び退いた。

腰当てに装着されていた、小さな皮のラックを開ける。そしてそこから"赤い液体の入った"長細いガラス管を取り出した。


「ライン、私に力をっ!」


 トリアは白い歯でコルク栓を引き抜き、赤い液体を飲み干す。すると、風もないのに、彼女の長い髪が逆立った。

 瞳が血のような赤に染まり、蒼いビキニアーマーから、真紅の輝きが迸る。

 

 ゼラの肌が圧倒的な力を感じて鳥肌を浮かべたのも束の間、気づけば目前にトリアが現れていた。


「ラインの力を得た私に絶望するがいい!!」

「っ!?」


 辛うじて蛇剣の襲撃を、大剣で弾くことができた。しかし矢継ぎ早に、上段から蛇剣の斬撃がゼラへ襲いかかる。

動きも何もかもが、先ほどのトリアと比べて段違いだった。

 聴覚、視覚、あらゆる感覚を総動員しても、弾き、避けるのが精一杯で、隙をついての攻撃に転じられない。。

 

「どうだ、ビムガン! これが魔神皇様の、ラインの血を飲んだ力だ! この力を手にした私に勝てぬものなどおらん!」

「ぐわっ!?」


 蛇剣が分厚い鎧の胸当てを盛大に切り裂いた。その衝撃は、ゼラを紙のように吹き飛ばす。


「ここまでだ、ビムガン。死んでもらうぞ!」


 トリアがゆっくりと迫る。。

 ゼラは必死に立ち上がろうとするが、地面へ叩きつけらた衝撃でうまく体が動かない。


(やべぇっす……これ、マジでやべぇ状況っす……!)

 

 すると、ゼラの脳裏へ皆の姿が浮かんだ。


 親友のビギナ、ようやく打ち解けることができたばかりのセシリー。

ベラ、フェア、ロナそして……ゼラを受け入れてくれた、強く逞しい弓使いのクルス。

 

(そうっす……ウチはみんなとまた一緒に過ごすっす。みんなでクルス先輩を支えるっす!)


 クルスの再び会うまで、子種を貰い、その子供を育て上げるまで死んでたまるか。

 こんなところで呑気に寝んねして、最期の時を待っている場合ではない!


 ゼラはよろよろと立ち上がり、しかししっかりと地面を踏みしめた。

 

「ほう、まだ立つ気力が残されていたか?」

「ビムガン舐めんじゃないっす。それに……大事な人の力を借りられるのは、お前だけの専売特許じゃないっす!」


 ゼラは内側から魔力を発した。

壮絶な赤い輝きが荒野を照らし出し、その眩しさはトリアを一瞬怯ませる。


装備解除キャストオフ!」


 赤い輝きが壊れた大鎧を吹き飛ばす。

鎖帷子だけになり、身軽になったゼラは地面を蹴り、輝きで怯んだトリアへ距離を一気に詰める。


 咄嗟にトリアは蛇剣を構えようとしたが、時すでに遅し!

 

猛虎剣タイガーソード秘奥義! おりゃぁー!」


 真っ赤に輝く大剣の柄がトリアの顔面を激しく殴打した。続けて刃が青い吸血騎を切り裂く。その繰り返しが神速の速度で繰り返される。

それはまるで荒ぶり、怒る、虎の猛撃。これこそ――!


猛虎乱撃斬ランペイジタイガ! クルス先輩から子種をもらうまでウチは死なないっす! 生きるのを諦めないっす!!」

「くくっ……あはは!」


 ゼラの猛攻を受け、激しく突き飛ばされながらも尚、吸血騎トリアは立ち上がった。


 しかしこれまでとは違い、ボロボロになりながらもトリアは笑みを浮かべていた。

それはゼラも同様だった。


「面白い、面白いぞ、ビムガン!」

「そっすね、ウチも今めっちゃ楽しいっす!」


 ゼラは大剣を構えなおした。トリアもそれに応じる。


「このまま殺すのは惜しい戦士だ。名を聞こう!」

「うっす! ウチは炎の大剣使いゼラ=リバモワ!」

「私は五魔刃四の刃――吸血騎トリア・ベルンカステル!」


 赤と青の輝きが荒野に輝く。


「みんなとクルス先輩のため!」

「同志とライン復活のため!」


 赤と青の戦士は同時に地を蹴り、三度目の死合を開始した。


「「いざっ!」」

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