僕の好きな学校で一番可愛い彩さんは、世界一可愛い彩さんだった。
NEET山田
第1話
「ねぇ君、一緒に遊びに行こうぜー」
山田太郎が彼女ーー斎藤彩音を目撃したのは、晴れ渡る外出日和の日曜日、商店街で男達に絡まれている時だった。
今年高校に入学し、皆一応に期待しただろう。ここから何かが変わるのだと。それを体現させた存在が斎藤彩音だ。
黒のストレートヘアーはさらさらとして光が当たると天使の輪のように輝く、透けるような肌は毛穴など存在しないと思わせるほど美しく、整った目鼻立ちに長い睫毛に覆われた大きな瞳には同じ教室に通う同級生達が目と心を奪われたに違いない。
教室の男子達は彼女の話題で持ちきりで、どこから手に入れたかわからない噂が飛び交っている。なんでも成績は優秀で、誰にでも礼儀正しい完璧超人との話だ。
実際に彼女を同じ教室で見ている限り、その噂は間違っていないだろう。毎日笑顔を欠かさずに友達と話しているし、下心丸出しの男達がチャレンジ精神で話しかけに行っても、決して邪険にしない心の優しさを兼ね備えてる。
誰しもが憧れるだろう。無論、太郎とて憧れないと言えば嘘になる。
しかし、周りのように行動に移すかと言われれば否だ。元々そう言った事をする人間でも無いし、成功する見込みも無い以上、玉砕覚悟でなんて勇気は到底湧いてこない。
そんな考えなので斎藤彩音は太郎にとって、ただの可愛いクラスメイトでそれ以上っも以下でも無い。
だから絡まれている彼女を見てもすぐに体は動かなかった。
商店街の壁端で男に囲まれ彼女は困り顔を浮かべている。
「君可愛いね、どう? 一緒に遊びに行こうよー、奢るからさ!」
「すみません……待ち合わせしてまして」
彼女が断りを入れても、男達は諦める様子を見せないどころか段々と体を寄せていく。
「そう言わないでさ! 絶対楽しいから!」
人通りの多い商店街でその一角だけが隔絶されたように避けられている。絡まれてるのは一目瞭然だが誰も好き好んで助けたいとは思わないだろう。
それはクラスメイトである太郎も同じだ、彼女を眺めながらも通り過ぎようと足を動かす。
しかし、なんの悪戯か、彼女ーー斎藤彩音と視線が合う。
太郎の体は罪悪感に苛まれたのか、石のように重くなり足が止まる。その視線を見て見ぬふりなど難しい。
退路を経たれ、言い寄れぬ不安を抱えながら足は勝手に彼女に進む。
「すみません……斎藤さんに何か用ですか?」
「なに君? 彼女の友達?」
「はい、ここで待ち合わせしてました。用が無いなら行きますね」
彼女の腕を掴み強引に引っ張ってにげだす。これ以上絡んでくるなと内心、必死に祈りながら意識は後ろの男達に注がれている。
「チェ、ハズレだ。次行こうぜ」
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