18.捻じ曲がった世界
「しらたま、出てくれ…!頼む…!」
校内を走りながら、しらたまに電話をかけようとスマホを探る。震える手をなんとか押さえてスクロールすると、赤い血がガラスに指の線をべとりと付けて画面を汚した。
ああもう邪魔だ。荒々しくスマホをズボンで拭き、指を変えて画面に触った。
プルルルルル…
耳元で電話のコールの音がうるさく鳴っている。けれど、なかなか繋がらない。仕舞いには、
「おかけになった電話は」
聞き慣れた、無慈悲な機械のようなアナウンスが流れた。最後まで待たずに終了ボタンを押す。なんなんだ一体。どういうことだ。
スマホをポケットに仕舞うと、再び走り始めた。行くあてなんてどこにも無かった。ただ、気が狂いそうなほどの衝動に駆られて、俺は足を進めていった。
一つ一つの講義室を、ドアを開けては中を見渡し、そして扉を閉める、そんな作業を繰り返した。
中には、当たり前ながら講義中の部屋もあった。いきなり入ってきた俺を、皆怪訝そうに見つめる。だが彼女以外の人間に関心などは一ミリもない。
りずがいないことを確認すると、余計な人間はその場に置き去りにしてまた足早に駆けていった。
校舎のどこにも、彼女の姿はなかった。その事実が暗い影を落とす。
もっと広い場所に出なければ。建物の出口を開き、外へ飛び出した。すると、
ぐらり。
目眩がして片目を押さえる。視界がねじ曲がるようにぐにゃりと歪み、その場で壁にもたれた。
急に走り過ぎたのだろうか?貧血でも起こしたのかもしれないと思い、固く目をつぶる。
そして再び重い瞼を上げると、見慣れたはずの景色が、歪に曲がりくねっていた。いやひょっとしたら、おかしいのは俺の頭なのかもしれない。
けれどどちらにしろ、この歪な世界が、彼女に通じているとなぜか直感した。
一本の樹に目をやると、それは渦を描くようにゆっくりと右回りにねじれて巻いていった。もう一度瞬きをすると元に戻り、また時間と共にゆっくりとねじれ始めていった。
中庭もサークル棟も、ふわふわとした目に見えない霧がかかったように現実味を無くしていた。
普通なら訳が分からない状況だ。だが、俺はなぜかそれをすんなりと受け入れた。そして、意を決するとキャンパスの外の世界へと足を踏み出した。
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