16.美少女の吊るし切り
その「夢」の舞台は、どこか廃墟のような場所だった。鉄製の柱が辺りに何本も立っている。
そして、その柱の二本の間に、俯いたりずが両腕と両足を鎖で繋がれていた。彼女は服を脱がされ、裸にされていた。彼女の肢体は仄暗い闇の中で、異様な美しさを放っていた。
「なんだよ…これ…」
思わず口元を押さえる。目が見開かれ、腕が震え始める。
「おい、りず、りず!大丈夫か!?」
近づき、彼女の体を揺さぶろうとする。だが、俺の手はすり抜けてしまって触れることが出来なかった。それならばと鎖を解こうと手を伸ばすが、こちらも無残に通り抜けてしまった。
「…この場に、俺がいないのか…?」
今までの「夢」は、俺にまつわる事柄だったため、自分の目線で見ていた。だから触れることも彼女と話すこともできた。
だが、今回はこの「夢」の時間軸にどうやら俺はいないらしい。そのため、この「夢」の中で彼女に何も働きかけることが出来ないのだ。
そうか、と思い背筋が凍った。
ひょっとしてこれが、しらたまの言っていた彼女の「前世の結末」なのかも知れない。
やがて、空間の奥の方から足音が聞こえた。それを聞き、気を失っていた彼女が目を覚ます。
「…いや!いやぁ!助けて!」
自らの置かれている状況に気がつくと、必死にこの場を逃れようと抵抗する。
「誰かぁ!」
けれど拘束具はびくともせず、ガシャンガシャンと鎖が柱に打ち付けられる音がするだけだった。
前世であるのならば、俺は何もできずにただ彼女の運命を黙って見つめるしかないのか。唇を強く噛みしめる。口の中に鉄の味が広がった。
そうしているうちに、男が姿を現す。りずの顔が凍りついた。どうやらこいつが犯人のようだ。顔に特徴などはない、いたって影の薄そうな人物だ。
だが、その男の姿に俺は一種の違和感を覚えた。なぜだろう?男はなんの変哲もないTシャツにジーパンを履いているのに。
…Tシャツにジーパン…?
嫌な予感が込み上げる。そして次の週間、その予感は的中した。男が、ポケットからスマートフォンを取り出したのだ。
「おい…スマホって。ひょっとして…」
不安が確信へと変わる。まさか、そんなまさか、と頭がうまく受け入れることが出来ない。だが、恐らくそれが事実だろう。
これは彼女の前世ではなく、未来なのだ。
「やだっやだあ…!」
男は、泣いて顔を背ける彼女の前髪を荒く掴んで、無理やり上を向かせた。そして手足を拘束された全裸の彼女を、スマートフォンで撮影した。何度も何度も、シャッターを切っていく。
その後何やら、スマホを三脚にセットし始めた。「何…?」と不安そうなりずをよそに、男は何やら準備を行なっている。
「さてと。ここからがお楽しみだよ。」
男はニヤリと笑うと、床に置いてあった箱から鉈を取り出した。屈んだ際に、男のジーパンのポケットから、町内の祭のチラシがひらりと落ちた。ひどく場違いな光景だった。
「ひっ…!」
鉈を見て、りずの顔が恐怖に引きつる。男がスマートフォンのムービーの撮影ボタンを押した。
「『美少女の吊るし切り』の、始まり始まり…!」
そう言うと男は、勢いよく鉈を振り上げた。りずの悲鳴が辺りをつんざくように響いていた。
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