ぼくときみのソーシャルディスタンス

権俵権助(ごんだわら ごんすけ)

夏のサクラ

 2020年、夏。


 ボクは、妹と一緒に満開のサクラの木を見上げていた。


「なあ、知ってるか? サクラって、昔は悪魔の花って呼ばれてたんだぜ」


 妹はむくれた。


「それくらい、私だって知ってるよ! 本で読んだもん!」


「それじゃあさ、昔は春に咲いてた花だってのは?」


「それは……知らなかった」


 悔しそうに声を絞り出す妹の頭を、ぐしゃぐしゃと乱暴に撫でた。


「もう! いつまでも子供扱いしないでよ! もう14歳なんだから!」


 その言葉をきっかけに沈黙が起きた。しばらくして。


「もうすぐ……だね」


 彼女はもう子供じゃない。明日、ボクと結婚式を挙げるんだ。


「うん。……人生の残り半分、よろしくお願いします」


「こちらこそ」


 ふたりで笑いあった。ボクたち、新しい人類が生まれてから2020年が経った。かつての常識は非常識になり、世界は良くも悪くもひっくり返った。でも、ボクはきっと今の世界の方が幸せだと思う。


 だって、好きな人に触れることができるのだから。

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