第33話 ヒロイン
お昼はみんなが食堂に行くわけではないので、俺たちは机を二つと、椅子だけ四人分という形でお弁当を広げることになった。
三人共可愛らしいお弁当箱。俺のとは見た目が随分違う。
中身も色とりどりだが、俺のは若干茶色の比率が高い。
これは決して母さんがどうこうというわけではない。
以前色とりどりなお弁当だったことがあるのだが、それだと量が足りなかったのだ。
それ以来、お肉の配分が少し増えたという経緯がある。
「先輩? 先輩はいつも一人でお弁当食べてるんですか?」
「うん。はっきり言って、高校で誰かとお昼を一緒にするのは今日が初めてだよ」
「「「……」」」
正直これ以外に言いようもないのだけど、ちょっと自虐的だったようだ。
三樹と浅野の目が見開かれて驚愕とまではいかないが、けっこう驚いている顔だ。
相坂さんに関しては、二人とは少し違った。
一年の頃から同じクラスだったこともあり、今俺が言ったことはすでに知っていることだったからだろう。
「それなりに気楽ではあったから、そんな顔をしないでほしいかな。
なんか居たたまれない感じになるから」
「先輩、居たたまれないですよぉ。今度からたまに私が来てあげますから!」
「それは遠慮しておく」
「こんな可愛い後輩が来てあげるって言ってるのに、酷くないですかぁ?」
浅野はいつも通りのテンションで話しているが、ジェスチャーのような動作と一緒に視線を走らせている。
それは自然な感じではあるけど、なにかを観察するかのように目が冷静な色をしていた。
「あの人たち、メッチャこっち見てますね」
「放っておきなさい」
浅野の言葉に、三樹がなんでもないように答える。
俺もそれには気づいていた。
小松たちは休み時間、以前のように女子のグループに話しかけようとしていたのだが、一言二言で会話を切り上げられていた。
特に三樹はあからさまだった。
話しかけないで、と言って小松が話しかけても完全無視。
自分から女子に話しかけてあんな言葉を返されたら、俺なら数年は女子に話しかけることはできないかもしれない。
そんな三樹と俺がお昼を一緒にしているのが、小松は気に入らないのかもしれない。
「ところでみんな、小説はどう?」
「先輩の新作のラブコメ、読みましたよ?」
「わ、私も真辺くんの、ちゃんと読んだよ」
「そ、そっか。ありがとう。でも、なんか顔見知りに読まれるのは恥ずかしいんだけど」
「先輩? 二話で出てきたヒロイン、年下の女の子でしたね?
もしかして、年下が先輩の好みだったりするんですかぁ?」
設定とか、こういう風にからかわれるのが嫌だから、あんまり読んでほしくないんだけど……。
そんなことを考えていると――。
「ラブコメっていったら家が近いヒロインとか、同じクラスとかでしょ。
あの後輩は本命ではないと思うわ」
「そ、そんなことありませんよ。あんまり私は詳しくはないですけど、後輩が本命のラブコメだってありますよね?」
そんな助けを求めるような目をされても困る。
「まぁそうなんじゃないか? 年上とか、幼馴染とか、後輩とかいろいろ出版されてはいるかな」
「そうですよね!」
「む、胸が大きい女の子がヒロインは、お、多いと思います……」
確かに相坂さんの言う設定はけっこう多い気がする。
男は胸、好きだし。
なんで二人は自分の胸を見てるんだ?
相坂さんの意見に、三樹と浅野が自分の胸を確認していた。
「先輩! あの後輩が本命なんですよね?」
「え? いや――」
「あの後輩は真辺くんのタイプじゃないと思うわ。
特にタイトルとあらすじには本命っぽいのは書かれていなかったけれど、一話に少しだけ描写されていた女子が本命ね」
「ま、真辺くん? あの一話の女子は、髪は長いんですか?」
「いや、まだちゃんとそこまで設定してなかった」
「真辺くん、黒髪ロングは男子に人気よ? きっとランキングに載ることもできるんじゃないかしら」
いやいや、それはどうだろう? 黒髪ロングのヒロインというだけでランキングに載れるなんて聞いたことがない。
それよりも、なんか逃げたいんだけど。
なんで俺の小説のヒロインについて、こんなに深堀りされてしまうのか……。
俺の好みとかが小説の設定で判断されるような気がして恥ずかし過ぎる。
部活に入ったのは、間違いだったような気がしてきた。
「先輩! 絶対あの後輩を本命にしたほうが読者つきますよ!」
「ショートヘアも、人気、あると思う……」
ジャンルをラブコメにしたのは、間違えだっただろうか……。
これ以上いろいろ言われるのはつらいので、俺は急いでお弁当を食べた。
そしていつも通りに教室をあとにする。
浅野はせっかく来てくれたというのもあったし、三樹と相坂さんもわざわざ来てくれたというのはあったのだけど、それにしてもあの話題はつら過ぎた。
若干三人に悪い気はしたけど、俺はその場を逃亡することにした。
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