第24話 初めてのお呼ばれ

 相坂さんのお母さんの言葉に、石丸先生は少し戸惑う表情をみせていた。

 そして石丸先生は、うちの方にも佐藤について訊いてきた。



「真辺君のお母様はどう考えられていますか?」



 だけど母さんはこれについて意見を言わなかった。

 今回のことは俺よりも、相坂さんが問題の核心だからと。

 それを聞いた先生は、今度は俺に訊いてきた。



「俺は、退学にするべきだと思っています」



 俺の言葉に、相坂さんのお母さんは当然という雰囲気があったが、先生と母さんは少し意外というような表情をみせていた。



「真辺、ちょっと聞きたいんだが、どうしてそう思う?

 こう言ってはなんだが、佐藤にはさっき水をかけてやり返してはいるだろ?

 それなのにどうしてそこまでそう思う?」


「俺が佐藤に水をかけたのは、前にやられたときに相坂さんが泣きながら俺の机を拭いてくれたからです。

 自分のせいで俺が被害を受けたと考えた相坂さんがいたからそれに対してやっただけで、俺のこととはあまり関係ありません」


「そういうことなのか。じゃぁ、それとは別に真辺は退学にするべきと考えているんだな?」


「はい。前回の小松たちと今回では性質が違うと思います。

 小松たちは俺に対しての執着はそんなにあるとは思えません。

 でも佐藤は違う。相坂さんに明確な執着があると思います。

 やってることはストーカーと同じですから。

 ストーカーがいたとして、学校側が完璧に相坂さんを守るのは難しいはずです。

 だから編入等の選択肢を提示してあげるなりして、退学させるのが妥当だと俺は思います」



 最初俺は、前回と同じように停学のほうが保険になる可能性があるのではないかと考えた。

 だけど佐藤は相坂さんのファンだと言っていた。

 俺にはファンの心理というのはわからないけど、ストーカーの問題はなかなか解決しないというのは知っている。

 警察も事が起きていなければなかなか動けないというのもある。

 手紙の内容から相坂さんに対する執着が俺には感じられたので、どこでまたタガが外れるかは予想が全然つかなかった。

 だから俺は退学させるべきだと主張した。



「俺なら、保護命令も地方裁判所に申請しますね」



 石丸先生はえ? という顔をし、相坂さんのお母さんはハッとしたような顔をしていた。

 ちょっと考え過ぎだろうか? だけどなにかあったときに警察がすぐ動けるようにしておくのは保険になると思う。

 佐藤がやったことは、ストーカーと変わらないのだから。



 それから数日後、佐藤が退学処分になったことが告げられた。

 相坂さんのお母さんや、俺の意見が考慮された結果なのかはわからない。


 そしてゴールデンウェークの初日、俺は相坂さんの家に招待された。

 結果的に相坂さんにとっても、俺がやった証拠集めが解決に繋がったからということだった。

 家の最寄りの駅で待ち合わせた相坂さんは、いつもよりも少しだけ大人っぽい雰囲気が感じられた。

 ノースリーブの肩部分にフレアがついた白いブラウスで、ボタンは首元まで閉めている。

 膝丈のピンクのスカートで、ミュールが足首を綺麗に見せていた。

 相坂さんの身長はどちらかと言えば低い方で、その上アニメ声なので雰囲気と若干ギャップを感じる。

 だというのに、先日判明したことだけど胸が……。

 つい目がいってしまい、意識的に視線を外すようにする。

 だって、ただ隣を歩いているだけなのに、揺れているのがわかってしまうくらいでつい目がいってしまうから。



「相坂さんの家、あのタワーマンションにあるの?」


「うん。お母さん、張り切って二つもケーキ作ってたよ」


「なんか緊張する」


「そんなに緊張しないで?」


「こんな風に招待されたことなんてないからさ」


「――か、彼女のお家とかに、お呼ばれとかしたことはないの?」



 相坂さんの言葉で、ふと三樹のことが思い出された。

 元カノと呼べるのは、俺には唯一三樹だけだ。

 だけどお互いの家にあがったことは一度もなかった。



「そんな経験したことないね」


「そ、そうなんだ。お母さんたちが招待したんだから、そんなに緊張しなくても大丈夫だからね?」



 マンションのエントランスはホテルのような感じで、CMとかで見るような造りだった。

 エレベーターで一七階に降りると、ホントにどこかのホテルのような通路。

 ダウンライトと間接照明で照らされ、絨毯が敷かれている。

 学校とバイト意外は殆ど出かけないような俺は、マンションの雰囲気に場違い感を覚えていた。



「ただいまぁ~」


「莉夏、おかえり。真辺くんもいらっしゃい! 上がって上がって!」


「おじゃまします」



 相坂さんのお母さんは、先日学校で会ったときとは雰囲気が全然違っていた。

 それだけ心配していたということなんだろう。

 相坂さんは一人っ子のようで、相坂さんの家族三人と俺の四人で昼食を取った。

 お手製のピザ、サラダ、コンソメスープをいただき、食後のデザートに関しては相坂さんの部屋でいただくことになった。 

 俺が緊張すると言っていたので、気を使ってもらってしまったのかもしれない。

 とはいえ相坂さんのお父さんとお母さんと一緒に食事をするというのは、やっぱり緊張してしまうので俺としてはありがたかった。

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