第22話 気持ち悪い男

 朝、昨日と同じように早く学校に来てビデオカメラを回収する。

 バッテリーを交換し、昨日の放課後の映像を確認。

 今回も特に問題になるようなことは映っていない。

 ビデオカメラをさっきと同じようにセットし、また俺は非常階段に移動した。


 ここ数日、またこの非常階段にはお世話になってしまっている。

 ちょっと前までは毎日のように来ていた場所。

 環境が変われば、居場所も変わるということだろうか。


 週二回とはいえ、俺にはオンライン小説部という居場所ができた。

 これだけでも、ちょっと前の俺からすれば劇的な変化。

 あまり気乗りはしていなかったことだけど、三樹には誘ってくれたことに感謝しなきゃいけないかなと思った。


 いつもの登校時間になり、教室へと向かう。

 教室に近づくに連れ、騒がしさが聞こえてくる。

 俺が教室に入ると、みんなの視線が俺に向けられた。


 先日と同じ光景が俺の前にあった。

 三樹と相坂さんが、また俺の机を拭いていた。

 俺が行くと、相坂さんがソッと一枚の紙を俺に見せてくる。


 男と話すな

 部活をやめろ


 一応念のために机の中を確認すると、空っぽの机に一枚の紙が入っていた。

 相坂さんのと同じように二折になっていて、それを開くと同じような切り抜きで書かれている。


 学校にくるな


 どうやらことが起こったようだ。

 俺はすぐにビデオカメラを後ろから取ってきた。



「ねぇ? もしかしてそれ、映ってるの?」


「――」


「たぶんね」



 俺は録画を止め、映像の確認をする。

 三樹と相坂さんも俺の横から覗き込んできた。

 ビデオカメラの液晶は小さいので、二人共寄ってくることになりちょっと狭い。

 二人の髪からフローラル系の香りがする。



「ねぇ? 再生しないの?」


「あ、悪い。する」



 二人の香りに意識がいってしまっていたことなど言えないので、謝ってすぐ再生をした。

 液晶には誰もいない教室が映っている。

 このままではどれくらい時間を取られるのかわからないので、早送りをしていく。

 するとそうかからずに人が入ってきた。

 再生速度を戻すと、そいつは廊下の方に消えていく。

 だがキョロキョロしながらすぐに戻ってきた。


 たぶん当たりだ。きっと周囲を気にしているのだろう。

 液晶に映っていたのは同じクラスの佐藤 浩介。

 こう言ってはなんだが、目立つような奴ではない。

 どちらかと言えば、俺に近い感じの立ち位置という感じだと思う。

 今は他の生徒と二人で、スマホを見て話している。


 液晶に映った佐藤は相坂の机の中身を全部出し、一つ一つを確認するように見ていく。

 それで気が済んだのか、カバンから紙を取り出して机の中に他の物と一緒にしまった。

 そのあとはまっすぐに俺の席に来て、バケツに入れた水を机にかけ、相坂と同じように紙を机の中に放り込んでいた。



「気持ち悪い」



 三樹が心底嫌そうに呟き、相坂は言葉にしなかったものの、表情が嫌悪を示していた。



「相坂さん、一緒に来てもらっていいかな?」


「う、うん」



 俺はビデオカメラと怪文書を相坂さんに渡し、掃除用具が入っているロッカーからバケツを出した。

 そのままバケツに水を入れてきて、うしろから佐藤に水をぶっかけた。



「うわっ! な、なにすんだよ!」



 いきなり水をぶっかけた俺に、周りのクラスメイトはちょっと引いているようだった。



「同じことをやっただけだけど」


「はぁ? いきなりなに言ってんだよ? 頭おかしいんじゃない?

 真辺、クリーニング代と慰謝料出せよ!」


「お前、なんで相坂さんの机に怪文書なんて入れたんだ?」


「な、なに言ってんの? 意味わかんねぇし」



 佐藤はチラッと相坂さんを見て、すぐに視線を俺に戻した。



「あんまり詳しくはないけど、あれって脅迫に入らないのか?」


「なにさっきから意味わかんねぇこと言ってんだよ。ふざけんなよっ!」


「さっき相坂さんが、お前のこと気持ち悪いって言ってたぞ?」


「――! せ、声優がファンにそんなこと言っていいのか!」


「席につ――、なんだこれは? なんで佐藤がビショビショに濡れてるんだ?

 真辺、お前がやったのか?」



 石丸先生が教室に入ってきて、事態に気づいたようだ。

 どうやら俺がバケツを持っていることから、水をかけたと推測したと思われる。



「先生、コイツが俺の机を水浸しにしたみたいなので、同じことをしただけです」



 先生は俺の席を見て確認し、佐藤に問いかけた。



「佐藤、お前がやったのか?」


「はぁ? そんなことあるわけないでしょ」


「俺も相坂さんも、部活をやめろとか、学校に来るなと書かれた紙を机に入れられました」


「なにわけわかんないこと言ってんだよ! 証拠でもあるのかよ!」


「あるよ」



 俺は相坂さんからビデオカメラと紙を受け取り、先生にそれを見せた。



「この映像は今日の朝のものです」


「おい! なんだよそれ!」


「お前が気持ち悪いのとか、水かけてるのが映ってる」


「みんなちょっと待っててくれ。佐藤はちょっと来い。

 相坂と真辺も一緒に来てくれ」

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