第21話 自衛

 俺たちは放課後、三樹にも怪文書のことを話すことにした。

 同じクラスということもあり、三樹にも今後なにかあるかもしれないからだ。



「相坂さんはオンライン小説部、どうしたい?」


「やめたくないけど、朝のこともあるから……」


「相坂さんのことと、俺のことに関連があるかはまだわからないよね?

 ゼロではないと思うけど」


「そうね。少なくとも朝の出来事は学校側にも知られているんだし、これで止まる可能性もないわけじゃないと思う」



 三樹の言う通り、俺へのことは相坂さんのものと違って周囲に知られてしまっている。

 職員会議にも議題にすると言われているから、これで終わる可能性も十分あった。



「俺も三樹と同じ考えかな。少し様子を見るのがいいと思う」


「……うん、そうだね。そうしてみる」


「ところで相坂さん? 姿勢が綺麗になった気がする」



 さすがいつも気をつけているだけあり、相坂さんの姿勢にもすぐ気づいたようだ。



「うん。お仕事で初めて会う人とか多くて、第一印象が少し気になっていたの。

 あんまり自分から話すほうじゃないから、そういうところからできることないかなって真辺君に訊いたら、三樹さんが姿勢に気をつけてるって」



 相坂さんの話を聞いた三樹が、なんかジトッとした視線を向けてきた。

 言っちゃダメなことなのか?



「いつもより顔が下を向いてないから、その方がいいと思う。

 いつも俯きがちで顔が見えづらかったから、話しかけづらい雰囲気はあったかもしれない」


「あ、そうか。そういうのもあるよね」


「うん。お母さんの受け売りだけど、そういうところも人間関係には影響してくるから」


「三樹さんのお母さんって、モデルのALISAさんなんだよね?」


「うん」


「すごく綺麗なお母さんだよね」


「どうもありがとう」


「じゃぁ、俺は帰るね」



 世間話が始まったので、俺は先に帰宅することにした。

 家に戻り、俺はしばらく放置されていたビデオカメラを引っ張り出す。


 学校側がどれだけ動くかはわからないし、また注意で終わる可能性が高い気がする。

 結局こういうことは証拠があるかないかの話になるのは間違いない。

 動けるときに追い詰めるだけのカードが用意できていなければなにもできない。

 結局自分、自分の環境を守るためには、自分で動くしかないのだ。


 そのために俺は、ビデオカメラで撮影することにした。

 相坂さんのは机に入れられていた。

 俺の場合は見たままという感じ。

 俺にまた同じようなことをしてくるかはわからないが、相坂さんのはまた行われる可能性が高いように思えた。


 次の日俺は、朝七時には教室にいた。

 まだ教室には誰もいない。俺の席、三樹の席、相坂さんの席と、特に変わったことはなかった。

 俺は教室の後ろにある荷物置き場にビデオカメラをセットし、荷物を持って非常階段で時間を潰す。


 こんな時間に来てもやることなどないので、俺は三樹に言われていた小説を練ることにした。

 俺はファンタジー系かラブコメで書くのを決めていたが、ラブコメにかなり傾いている。

 ファンタジーの場合、ラブコメよりも設定など考えることが増えそうな気がしたからだ。

 どういう世界観なのかとか、決めなければいけない名称などファンタジーは多そうだ。

 その点現代ラブコメならそういう部分が大幅にカットできるので、物語などに時間を割くことができる。

 俺はタブレットを取り出し、投稿サイトのランキングに目を走らせた。

 ファンタジーとラブコメのランキングをざっと見て、どういう感じの作品が並んでいるのかを見ていく。

 三樹には一万文字前後の短編を最初は勧められていたので、俺はラブコメを最初に書くことにした。

 ジャンルを決めた頃には、俺がいつも学校に着く時間になっていた。


 気づけばさっきと違って話し声なんかも聞こえる。

 俺はもう一度下駄箱で靴を履き替えて教室に戻った。

 いつもと変わらないクラスの雰囲気。

 パッと見た感じはいつもとなにも変わらなかった。

 俺はビデオカメラはそのままに席に着く。


 いきなりビデオカメラを回収では動きが不自然だし、立ち歩いてる人も多いので見られてしまうかもしれない。

 それを避けるため、回収は後回しにした。



「真辺君、おはよう」


「お、おはよう……真辺君」


「おはよう」



 俺の席は特になにも変わったところがなく、相坂さんにもなにもなかったらしい。

 さすがに昨日の今日ということもあるのかもしれない。

 お昼にビデオカメラを回収し、非常階段で映像を確認してみたけどなにもなかった。

 ビデオカメラを予備のバッテリーに交換していると、スマホが鳴った。


 先輩! どこにいるんですか?

 昨日も中庭にいないし、今日はクラスまで来たのにいないし!

 あなたの可愛い後輩が待ってますよ?


 既読がついたので、読んだことは伝わっているだろうからいいだろう。

 そのままそっとスマホを閉じて、朝の映像を削除しておいた。


 放課後はギリギリまで非常階段で時間を潰し、ビデオカメラを朝のようにセットしてバイトへと向かう。

 放課後の可能性は低いと思うけど、遅い時間などにやっている可能性もゼロではない。

 ビデオカメラは約四時間録画できるので、朝と放課後に絞るなら十分もつはずだ。

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