第13話 ボッチはかわらない

 小松たちが停学になって数日、俺には穏やかな学生生活が戻ってきていた。

 以前のように周囲に気を張る必要がなくなり、随分と精神的に楽になっている。



「三組の――」



 どうやらまた一つのカップルが別れたようだ。

 俺の隣にいる三樹の下には女子が集まる。

 聞くつもりがなくても噂話が聞こえてくる。


 この数日の間、停学になった連中と付き合っていた女子たちが次々と別れている。

 お前らイジメをしていたこと知ってて付き合ってただろ? と言いたくなる。

 とはいえ公になって停学になってしまえば、見方も変わるのかもしれない。



「ねぇ? 真辺君?」



 チラチラと視線を向けてきていた女子だが、俺が一切気にしていなかったからか声をかけてきた。



「なに?」


「噂で聞いたんだけど、小松たちの親論破して慰謝料取ったのって本当?」


「…………」



 この数日の間、たぶん停学している誰かだと思うのだが、示談のことを誰かに話したみたいで噂になっていた。

 少し周囲に視線を流すと、あっちこっちから視線を向けられていることがわかる。

 周囲も事の真相が気になっているようだった。



「まぁ、そうかもしれない」


「本当だったんだ。慰謝料いくらなの?」


「そんなことまで言えないよ」



 みんなただの興味ではあると思うけど、金額のことまで言う気にはなれなかった。

 それにたぶん、言ったらちょっと引く。

 なにしろ一〇〇〇万を超えてしまっている。

 中学の方もさらに上乗せされることを考えると、一五〇〇万にまでいくので人に言えるようなことではない。

 まぁ金額抜きにしても、言うようなことではないと思うんだけど。



「真辺君がお金持ちってことは確かだよ」



 三樹は余計なことを言わないでくれ。

 高校生にしてみれば、確かにかなりの金額であるのは間違いないけど。



「真辺君は部活なにしてるの?」


「俺はどこにも入ってないよ」


「そうなんだ……」



 そういえばここ数日、三樹は見学で部活を回っているようだった。

 何人かから声をかけられているようで、迷っているのかもしれない。

 まぁ、俺には今更縁のない話。

 状況が変わったからといって、他の人間関係はなにも変わらない。

 今更部活もなにもないのだ。


 午前の授業が終わり、俺はいつものようにお弁当をサッサと食べる。

 すぐ隣にはもはや三樹のグループと呼んでも差し支えない女子たち。

 そのすぐ隣でお弁当を食べるボッチの俺。

 気にしないようにすることはできるけど、それでもなんとなく落ち着かないのは避けようがない。

 その結果俺は、今日も昼休みは外に出た。


 いつものように自動販売機で飲み物を買う。

 今日は珍しくイチゴ・オレ。

 コーヒー系や紅茶はバイト先でも飲むし、なにかと飲む機会は多い。

 そのせいか、たまにこういう系統の物を飲みたくなる日もあったりする。

 いつものようにスマホを見ていると、人が近づいてくるのがわかった。



「いつもお昼は外に出てるんですか?」



 スマホの向こう側に女子の足元が見える。

 視線を上げて確認するけど、知らない女子だった。



「どうして?」


「真辺先輩ですよね? ここ数日いつも見かけたんで。随分可愛い物飲んでますね?」


「俺のこと知ってるの?」


「TVとかでも騒がれてましたから」



 なるほど、確かにそうだ。同じ学校なら噂で特定されていてもおかしくはない。



「先輩はモデルのALISAさんに会ったことあるんですか?」


「――あるよ」



 最初答えていいものか少し迷ったが、正直に話すことにした。

 三樹のお母さんがALISAだというのも、噂になっている可能性は高い。

 ここでへんに隠す必要もないと思った。



「ところで誰? 一年生?」


「はい! ちょっと前に入学したばっかりの可愛い後輩ですよ?」



 なるほど、自分が可愛いことを自覚しているタイプらしい。

 髪は明る過ぎない感じでハーフアップにしている。

 目も大きく、どちらかと言えば少し目尻が下がっている感じ。

 三樹は中学の頃新体操をしていたせいか、それとも愛理沙さんの影響なのかスラッとした印象だ。

 身長も女子にしては高い方になるというのもあるのだろうけど、目の前の女子は可愛い体型という感じだろうか。

 身長は一六〇センチないくらいで、スカートから伸びている太腿はいかにも柔らかそう。

 口調は少しウザい感じはするけど、制服を着崩しているようなこともない。



「ふ~ん。それで、なにか用があるの?」


「可愛い年下の後輩女子から話しかけられて、そういう素っ気ないこと言うんですか?

 そんなんじゃ女の子からモテませんよ?」


「俺のこと知ってるんでしょ? 自分で言うことじゃないかもだけど、ボッチの俺がモテると思う?」


「――」



 俺のことをジッと見てくる。



「モテてもおかしくはないと思いますよ?」


「あっそう。ありがとう」


「いえいえ。どういたしまして」


「B専っぽいから、気をつけたほうがいいよ?」


「あっ! どこ行くんですか?」


「ゆっくりできないから戻るんだよ」


「えぇ~、もう少しお喋りしましょうよぉ~?」


「遠慮しておく」



 なんかよくわからないのに絡まれたので、俺は早々にクラスへと戻った。

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