第7話 明かされたいじめ

 翌日、俺は母さんに起こされた。

 いつも母さんに起こしてもらっているわけじゃない。

 いつもよりも三〇分早い時間。

 一戸建ての二階から一階にあるリビングへ降りると、いつもよりも少し大きめな音量でTVが点いていた。



「クラスでいじめがあるようで、娘が相談に来ました」



 TVではモデルのALISAが、娘のクラスのことを話していた。

 FAXだけではなく、どういう段取りかはわからないがインタビューもしていたようだ。

 いじめの当事者のことは伏せられているが、学校名もしっかりと全国に流れていた。

 これでもうあとには引けない。

 この結果が出るまで、やり切る他になくなった。



「ねぇ? 私本当に一緒に行かなくていいの?」


「母さんは愛理沙さんと一緒に行く約束してるんでしょ?」


「そうなんだけど」


「どうせ俺も呼び出しされるだろうし大丈夫だよ」



 俺は食事を済ませ、いつものように自転車で駅へ向かう。

 学校の最寄りの駅へ着き、学校へ歩いているといつもと違う光景が目に入った。

 桜花高校の制服を着ている生徒に、話しかけている人達がいる。

 教師たちが学校の外まで出てきていて、生徒に話を聞こうとしているメディアの人たちに対応していた。

 これなら学校側とも、問題なくテーブルにつくことができそうだ。


 校舎に入りスマホを弄って教室へ向かうと、男子生徒の人集ひとだかりができていた。

 他のクラスからも来ているようで、いつもよりも騒がしくなっている。



「来た!」



 俺を確認して、俺が来たことを周囲に知らせている。

 教室に集まっているのは、学年カースト上位の男子グループ。

 どの顔もみんな見覚えがある。

 その中を進んでいくと、教室に入ったところで立ち止まることになった。

 目の前に小松が来て進路を塞ぎ、周囲が他の生徒で囲まれた。



「ニュース観たんだけど、お前知ってる?」


「この高校でいじめがあるってやつなら観た」


「あれお前?」


「どういうこと? ALISAが俺かってことなら違う」


「んなことわかってるよ!!」


「チクったのはお前かって訊いてんだよ!」


「それって、自分がイジメをしていた自覚があるってこと?」



 話しているところで、石丸先生が息を切らせながら教室に入ってきた。



「真辺! ちょっと来てもらっていいか。それと三樹さんも来てくれ。

 今日はホームルームなしだ」



 今頃母さんと三樹のお母さん、愛理沙さんが来ている頃だ。

 俺は小松たちの囲みを抜け、カバンもそのままで応接室へ向かうことになった。

 三樹が呼ばれたのは、愛理沙さんのことじゃないかと思う。

 応接室に入ると、奥のイスには母さんと愛理沙さんが座っていた。

 二年を受け持っている先生たちも全員いて、校長、副校長もいる。



「あぁ、真辺君、三樹さん、二人共こっちに座ってくれるかな?」



 校長が率先して声をかけてきたので、それに従って腰を下ろした。



「私達も今朝TVを観てね。二人からも話が聞きたかったんだよ。

 三樹さんがお母さんに相談したというのをお母様がTVで仰っていたんだけど、そういうことなのかな?」


「はい。そうです」


「これは私達も疑うとかではなく、確認したいからなんだけど、勘違いということはないかな?」


「昨日目の前で見ましたから、間違いありません」


「でも編入してきたばかりで、イジメと確定できる程なのかな?」


「それは……」


「ただの喧嘩と、いじめの区別が結愛にはつかないと仰っているんですか?」



 愛理沙さんが三樹に助け舟を出した。



「い、いや、そういう意味で言っているわけではないんです。

 ただイジメと確定するには、あまりにも昨日だけでは情報が不足し過ぎていると思いますので、ちゃんと確認をする必要があると」


「なら、どうやって確認するんですか? 以前誰かがこの件で学校側に対応をお願いしたことがあったようですが、そのときはぼかしてホームルームで注意を呼びかけるだけでしたが?」



 実は高校に入って、誰かが俺のことを教師に相談したようなのだ。

 だが俺は聞き取りをされたこともなく、ホームルームで注意がされたことでそのことを知ったくらいだった。

 だけど今回はやり切る他にない。そうでないと、母さんを泣かせてまで話した意味がなくなってしまう。



「だからまずは、こうして話を聞くために二人に来てもらったんだよ」



 それから俺は、誰が加害者なのか、どういったいじめがあったのかを話すことになった。

 大体は陰湿なものであったが、中には暴行に入るものもあり、母さんはたまらずに涙を流すことになってしまった。

 だがこちらの目論見通り、学校側が本腰を入れて動き始めた。

 これでなんらかの結果を学校としても出す方向になるはずだ。



「真辺君には申し訳ないんだが、少し時間をくれるかな?

 相手の生徒たちにも話を聞かないわけにはいかないから、少しだけ待ってもらえるかな。

 ちゃんとことの事実確認をして、然るべき対処をするから」



 学校側の言い分はもっともだ。片方だけの話だけというわけにはいかない。

 人数も二三人とそれなりの数だ。それだけ時間が必要になるのはあたり前のことだった。

 その後俺たちは教室には戻らず、四人でランチを食べて帰宅することになった。

 ランチの席で、愛理沙さんがALISAとして使っているSNSを見せてくれた。

 そこには俺のことが書かれていて、応援してくれているコメントがたくさんきていた。



「世間はこんなに応援してくれているから、ギャフンと言わせちゃいなよ?」


「はい、ありがとうございます」



 きっと俺が同じことをしても、あんなに反応はなかっただろう。

 それでもコメントが俺を後押ししてくれていると思うと、安心感のようなものが湧き上がってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る