第22話 イケ眼鏡
登校初日、下駄箱を開けるとそこには果たし状が入っていた。
【放課後体育館裏まで来い 辻本 光斬】
「はぁ…アホらし。」
無造作に破られたようなノートの切れ端に、そんなことが書き殴られている。
取り敢えず上履きに履き替えて、三年の下駄箱まで行き、誰も見ていない事を確認した後、適当な所にそのノートの切れっ端を入れておいた。
「行く訳ねーだろ、ばぁか。」
辻本が俺より早く登校していたという事実に気づき、苦笑いしながら自分の教室に向かった。
俺のクラスは5組。校舎の一番奥だ。
こちら側には1組から5組が並んでいて、中庭を挟んだ向う側の校舎には6組から10組が並んでいる。
便宜上、こちら側の事を手間の校舎、向う側を奥の校舎と呼んでおこう。
1組の前を通る時、教室内をチラリと覗いてみると、俺に気がついた辻本は、口端を上げてこちらを見ていた。
俺は首を振り、無視して自分の教室に向かう。
教室に入り、自分の席に着いた。
周りを見渡すと、既に登校していた生徒の中で、何組か集まりがあった。
同じ中学同士なのかもしれない。
私立の中学だと公立とは合格率が違うから、入学した人数も違うだろうしな。
「お前が山口結月か?」
ボーッとしているといきなり名前を呼ばれ、早速絡まれたのかと思い、うんざりしながら声のした方を向く。
「あん?」
中学の時のイメージで、絡んでくる奴なんてニヤニヤと笑っているやんちゃな野郎かと思い込んでいたけど、そこに居たのは眼鏡をかけた真面目そうなイケメンだった。
「なんでいきなり喧嘩腰なんだ?名前を確認しただけだろう?」
絡んで来た訳じゃないのか。
「ああ、悪い。それでお前は誰だ?」
イケ眼鏡は片眉を上げて肩を竦めた。
そんな姿が様になっていやがるな。
「俺は
「なるほど、そういう事か。ウチは昨日、余り親と話す時間がなかったからな。聞いてなかった。すまん。」
「いや、構わない。山口は双子なんだろう?ウチもなんだ。だから俺の名前を呼ぶ時は大和と呼んで貰えると有難い。」
見た目通り真面目なんだろう。
すげぇ硬い話し方だが、敵意は感じられない。
中学では失敗したが、高校では友達を作ってもいいのかもしれない。
「じゃあ俺の事も結月と呼んでくれよ。何かの縁だ、仲良くしてくれると有難い。」
「ん?ああ、そうだな。俺も引っ越してきたばかりで知り合いもいないからな。」
大和の親は、就職の為大学卒業と同時にこの地を離れたそうだ。
随分と久しぶりに地元に戻って来る事になり、丁度高校入学のタイミングだった為、この学園を受験したと。
「じゃあ、大和はこの街を余り知らないんだな?」
「ああ。良ければ色々と教えてくれ。」
まぁそういう事なら…と、なんかデジャブった。
前にこんな事あった気がするな…
「どうした結月?面倒ならいいぞ?」
「いや…そうじゃない。放課後ぶらつくか?」
放課後か…何か約束もあった気がするが。
忘れているというのなら大した約束では無いのだろう。
一日の授業が全て終わり、約束通り街を案内をしてやろうと大和に声をかけると、妹に一声かけて行きたいと言うので、付き合って大和の妹である撫子の教室迄向かう事にした。
そのクラスは美月と同じらしい。
丁度いいから美月も紹介しておくかと大和に続いて教室を出る。
暫く廊下を歩いていると、1組から見た事のある男が出てきて、こちらに気がつくと、ニヤリと笑いながら廊下の真ん中で俺を指さした。
(にげるなよ?)
声には出ていないが、唇の動きでそんな事を言っているのが分かる。
しかしそんな事をしていると目立つものだ。
辻本を奇異の目で見ている生徒たちがいる事に、本人は気付いていない。
辻本は決まったとでも思っているのだろうか、踵を返して去っていく。
「なんだあれは?結月の知り合いか?」
「いや、知らない奴だな。目立ちたがり屋なんじゃないか?」
「そうか…あの男、愛してるって言ってなかったか?」
「…………は?」
「いや、こんな人が多くいる場所で声には出せなかったのだろうが、唇を読むとそう言っていただろう?」
「いやいやいやいやいやいやいやいや!はぁ?!違うだろ?!」
「そうだろうか…まぁ勘違いならいいが…」
あれ?
大和ってポンコツなんじゃねえの?
真面目そうなポンコツってどうよ?
(にげるなよ?)と(愛してる)って、口の開き方全然違うし、第一相手は男だぞ?
どう考えても友好的な表情ではなかったし、なんでそう思うんだよ。
大和は眼鏡を中指で上げて、首を傾げている。
「あ〜、もう行こうぜ。」
「む?そうだな。」
辻本の言っていたことは意味が分からないが、正直あいつの事なんざ何の興味もない。
別に逃げる気もないし、逃げる必要も感じない。
後で思い出したが、そう言えば今朝果たし状が下駄箱に入っていたから(にげるなよ?)と言っていたのだろうが、そんな事完全に忘れていて、その日、辻本は俺が適当にその果たし状を入れた三年と体育館裏で会い、暴力沙汰を起こした後、入学早々一週間の停学処分を受けたと言うのは別の話だ。
俺達は奥の校舎まで移動をしていたのだが、なんだか視線を感じる。
それは、大和を見ている女子生徒の熱い視線だ。
このイケ眼鏡はそんな視線に慣れているのか、柳に風と受け流している。
「結月、お前はモテるのだな?」
片眉を上げ、フッと笑いながらそんな事を言う大和の頭を、後ろから叩いた。
「な、なにをする?」
「うるせぇ、このポンコツイケ眼鏡が。」
「??」
本当に分かってなかったのかよこいつ。
慣れてる訳じゃなかったわ…
大和は中指で眼鏡を上げ、首を傾げる。
これはこいつの癖か?
思わず笑ってしまう。
「いい友達が出来たよ!」
そう言って背中を叩くと、大和は一瞬驚いたような顔をした後、柔らかく笑った。
「む?そうか、それは良かった。」
再び歩きだそうとしていた矢先、立ち止まっていた廊下に面している教室から出て来た生徒とぶつかった。
「きやっ!」
「うわっと!」
その生徒は慌てているようで、文字通り教室から飛び出して来た為、ぶつかって来たようだ。
「あ、ごめんなさい!」
「いや、大丈夫か?」
何かオドオドとしたようなその女子生徒は、仕切りに頭を下げる。
「ま、待って下さい!」
同じ教室から、今度は男子生徒が飛び出して来た。
それを見た女子生徒は、困った様な顔をして俯いている。
これはあれか?
男に言い寄られて困っている女の子って感じか?
「なぁ、急いでるんじゃないのか?」
そんな事を女子生徒に言ってみると、彼女はハッとして俺の顔を見た。
「ご、ごめんなさいですぅ。失礼します!」
彼女は一度頭を下げ、足早に去って行く。
男子生徒は慌てて追いかけようとするが、その肩を掴み、静止させた。
「しつこいのは嫌われるぞ?」
「あ、うぅ、はい。そうですよね…」
男子生徒は肩を落とし、追うのを諦めたようだ。
去って行く彼女の後ろ姿を眺めながら、立ち尽くす彼を見て、俺は何故だか苛立ちが募る。
「おい…お前…」
何を言おうとしたのか自分でも分からないが、無意識に言葉を発した時、不意に俺を呼ぶ声が聞こえた。
「結月?何故貴方がこちらの校舎にいるの?」
見ると、美月とその友達の相馬、それから見たことの無い女子がいた。
「あぁ、美月か。こいつに付き合ってな。」
そう言って俺は大和を見る。
「撫子、丁度良かった。俺はこれからこの結月に街を案内してもらう。帰りが遅くなるかもしれない。」
大和が声をかけたのは美月の傍にいるポニーテールの小柄な女子。小柄ながら、その胸には大した武器があるようだが。
なるほど、この子が大和の妹の撫子か。
そうして俺達はお互いの紹介をしたんだが、どうにも気が他に向いてしまう。
それは美月も同じようで、大和を紹介している間も、何度か目線が俺の後ろに向いていた。
そこにいるのは、先程女子を追いかけようしていた男子なのだが…
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あぁ〜、体調不良で更新遅れまして、申し訳ございません。
ボチボチ書いていきますので、良かったらまた見て下さいまっせ!
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