第19話 卒業
迂闊すぎた。
終わったと思っていた。
聞いていた話では、主要なメンバーの他は、何をやっているのかも分かっていない使いっ走りと言われる人だけ。
現場では殆ど顔を合わせる事もなく、そう言う人がいる事だけは奴らの会話の中で知っていたと言う程度。
「あぁぁぁあぁああぁあぁ!!!」
あの日以来、結月は荒れていた。
自分は脳震盪で気絶しただけだったのに…
病院の個室で、物思いに耽けるような様子でいたかと思うと、突然叫び出したり、何度も鎮静剤を使って落ち着かせる事があった。
頭を打った事によると思われる記憶の混濁が激しくて、一時は本当に大変だった。
祝勝会が終わりに近づいた頃、父さんのスマホに見知らぬ番号から連絡が入った。
それは救急病院からだった。
歩道橋の階段から、二人で転がり落ちたと。
結月だけならまだしも、人一人抱えながらだと受身すらままならなかったよう。
警察からも軽く事情聴取があったけれど、事件性はないと判断され、事故で処理されそうになっていた。
しかし、近くの公園である事が起きていた。
公園の端にある木で、ベルトを使って首を吊った男が、遺書を書いていた。
内容は支離滅裂だったけれど、仕事を失って絶望している事。通り魔的に歩道橋から知らない人を突き落としたと言う内容も書いてあり、関連性を調べられた。
マヤちゃんが動いて、首を吊った男の写真を入手し、葛城凛の母親に見せたところ、恐らく使いっ走りと言われる男だったらしい。
恐らくと言うのも、何度かチラリと見た事が有るだけの男で、話した事も無かったと。
結月の所にも警察がその男の写真を持って現れたけど、その時の結月は一番記憶が曖昧な状態で、分からないと言うだけだった。結局、関連する証拠も無いと言う事で、結月達の件は事故で処理された。
「父さん、結月は…」
病室で、今は眠っている結月のベッドの周りで、私達家族は悲観に暮れていた。
もう直ぐ一週間が経つ。
「許せなかったんだろう。守れなかった自分が。」
バカな兄。
あれだけ助けると大見得を切っていたにもかかわらずこの有り様。
私は結月の手を握る。
寝ている筈の結月が僅かに握り返してくる。
「大丈夫よ。誰の子だと思っているの?」
「母さん…」
母さんは結月の枕元に立ち、優しく頭を撫で、額に口づけをする。
「そうだな。俺と花蓮の子だ。どんな形であれ、コイツは前に進むだろう。変な道に迷い込みそうになっても美月、お前がいる。お前も俺達の大事な娘だ。信頼しているのは、言うまでもないよな?」
父さんは私の頭を優しく撫でてくれた。
「うん…」
その時の、結月の心についた爪痕は残ったまま、私達は何時もの生活に戻った。
学校では相変わらずの結月を、私は叱咤激励し、時には脅し、必要以上に追い立てて、私達兄妹は、無事に中学を卒業した。
進学先は、二人揃って父さんの母校
【私立
母さんの母校に通うと言っていた幼馴染から、一緒に受験をしようと言われたけれど、私は父さんの母校に行きたかったし、私の学力的にも当然の選択だと皆言ってくれた。
私達が通っていた公立の中学ではその年、天照学園の合格者が例年以上に多かった。
それ迄は、毎年一名から三名程度しかいなかったけれど、私達の学年では八名の合格者を出し、内訳は私達兄妹と、その他は私と仲良くしていたお友達。
「おめでとう、結月、美月。」
入学式の朝、父さんは私達に言ってくれた。
「ありがとう父さん!これで私は父さんの後輩ね!」
「ん、ありがとう。」
結月の返事は素っ気ないものだったけれど、それは照れているからだと言うのは分かっている。
「後で行くから、美月は頑張って、結月は…寝るなよ?」
「うん!いってきます!」
「分かってるよ。いってきます。」
今日から私達の高校生活が始まる。
父さんと同じ道を歩ける事に浮かれて、様々な問題が降りかかるなんて思いもせずに。
―――――――――――――――――――――――
第一章終わりです。
何となく勢いで書いてみましたが、もうちょい続けてみますね^_^;
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