閑話 貴方と一緒に見る月だから

 夜風が肌に優しく触れる。

 未だ強い昼間の日差しに焼かれた身体を癒してくれるような風が、とても気持ちいい。


 思い立ったように船外に出た、世界一素敵な私の旦那様に続いて、甲板に出た。


 空に浮かんでいる月を、見ているようで見ていない夫に、そっと声をかけた。


「何を考えているの?」


 私の声に反応して、優しい微笑みを向けてくれる夫が愛しくて、胸が締め付けられる。

 何年経っても、私は夫が愛しくてたまらない。


「あぁ、子供達の事をな。」


「フフッ、大丈夫よ。私達の子供なんだから。」


 夫の心の憂いは、私が断ってあげたい。

 心配そうな瞳をしている夫をそっと抱き締める。


 最愛の娘からの留守電を聞いてから、居ても立っても居られないようで、船室で大人しくして居られなかったのだろう。


 私の留守電に入っていたのは信頼する後輩からの連絡。子供達が面倒事に首を突っ込んでしまったというもの。


 私は直ぐに連絡をすると、その内容を聞いた。

 どうやら娘から依頼され、その依頼料は私に押し付けたらしい。私が夫を独占しているのが気に食わないのでしょうね。気持ちは分かるから、今回は不問にしましょう。

 あ、いえ、夫と約束をしていたデートに、私もついて行くという罰を与える事にしましょうか。


 娘の報告で要領を得なかったのか、頭を捻っている夫が可愛らしくて、抱き締めてしまう。


 私は今し方聞いた話を夫に伝えると、深い溜息をついて頭を抱えてしまった。

 今直ぐにどうにかしてあげたいという気持ちと、何故そんな事になったのかという困惑が伝わってくるよう。


 私も子供達の事は心配だけれど、それよりも最愛の息子の気持ちを汲んであげたかった。


「あの子達に任せてみましょう?」


「何故だ?」


「結月がね、自分の力で女の子を助けてあげたいんですって。フフッ…」


「んん?そうなのか…じゃあ、任せてみるか?」


「ええ、子供達を信じましょう。」


 私達は理不尽な理由で一度は引き離された。

 男の子が女の子を守りたい、助けたいという気持ちは、夫には痛い程分かる事なのだと思う。


 助けたいけど出来ない、子供達にそんな思いをさせたくないと、私達夫婦は子供達が助けを求めるならそれに力を貸せるようにしている。


 知識も、自分を守れる力も叩き込んでいる。


 後は最悪の事態が起こらないように、色々な人に協力してもらいながら、子供達を信頼して見守るだけ。


 私は夫を落ち着かせるようにそっと唇を重ねた。


 少しだけ驚いた顔をした後、私の大好きな笑みをして今度は夫から唇を重ねてくれた。


「今日の月は、あの時を思い出させるな。」


「そうね。あの子達を授かったと聞いた日の夜。」


 あの時という言葉で、私は直ぐに思い出した。

 夫の事は、私が一番分かっている。まだまだ娘には負けないわよ。


「なぁ花蓮、今夜は月が綺麗だな。」


「フフッ。えぇ、シンと一緒に見る月だから。」

(この愛は貴方あってのもの)


 月の光に照らされながら抱き合い、三度唇を重ねた。



―――――――――――――――――――――――


別タイトル『Rest feather』で、父親バージョンも公開中です。


暇を持て余してたら読んでみてください。






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