第83話
ゲルルフの命を受けた《ヤミガラス》の隊長オルランドは、四人の部下と共に、天空艇を動かしてアルマのいる村へと移動していた。
「オルランド様、この付近のはずです」
黒髪の短髪の女剣士、《ヤミガラス》の副隊長であるフランカが、地図を片手にオルランドへと声を掛ける。
「ほう? では、そろそろ例のアルマと対面できるわけだ。ゲルルフ様が、重要視する人間だ。楽しみではないか」
オルランドは不敵に笑った。
そのとき、彼らの許へ、金髪の少女が走ってきた。
背が低く、ぶかぶかのローブを纏っている。
彼女は《ヤミガラス》の錬金術師にして、ゲルルフの一番弟子であるゾフィーであった。
「隊長さん! 屋外へ出てください! 凄いですよ、いや、これは凄い! いえ、想定以上でしょう! ゲルルフ様も、お喜びになるかと」
興奮気味にゾフィーが声を荒げる。
「チッ、騒がしい。何がそんなに凄いというのだ」
ゾフィーはオルランドの返事を無視して、素早く外へと戻っていく。
オルランドはフランカと顔を合わせた後、ゾフィーの背を追って外へと出た。
「なんだこれは……?」
オルランドは、地上に広がる景色を見て、目を疑った。
建物はどれも大きく、最低でも二階建てとなっている。
オルランドのイメージしていた村とは大きく掛け離れていた。
そして百以上はあるゴーレムが村の中を歩きまわり、石材を運んで巨大な外壁を築いている。
村の端には、時計盤と大量の煙突のついた、大きな豪邸がある。
ゲルルフの塔よりも遥かに高く、巨大である。
オルランドは言葉を失い、茫然と村を眺めていた。
「こ、こんな、ことが……? ゲルルフ様、アルマとやらは、殺すべきかもしれません……」
オルランドは汗ばんだ手で手摺を掴み、地上を見下ろす。
「あっ! 隊長さん、見てくださいよアレ!」
ゾフィーが無邪気に地上を指差す。
オルランドが目を向ければ、そこには青々とした輝きを帯びた船があった。
「てっ、天空艇!? わざわざ力量差を示すために天空艇を持ってきたと言うのに、アルマは既に天空艇を有しているのか!? 有り得ん……こ、これでは、我々が何をしに来たのか、わからないではないか!」
「
ゾフィーは顎に手を当て、嬉しそうに口にする。
「オルランド様……アルマを威嚇するのは、まずいのでは? 不用意に壁を越えれば、何が起こるかわかりません。地上に降りましょう。すぐ、操縦の者に命令を」
フランカの言葉に、オルランドは表情を歪める。
「ゲ、ゲルルフ様直属の我々が、下手に出るというのか! こんなもの、ハリボテの見せかけに過ぎん!」
「というより隊長さん、これ、引き返して師匠に指示を仰いだ方がいいですよ。あの人、怒ると本当に怖いんですからね」
「黙れ、ゾフィー! ゲルルフ様は、今回の任務における細かい判断は、オレに任せると言っている! いちいち戻って指示を仰ぐなど、そちらの方がお怒りを買うぞ!」
オルランドはゾフィーをそう怒鳴りつけた。
ゾフィーは面白くなさそうに、自身の癖毛の先を指で弄る。
「そういう次元じゃないと思うんですけどねえ」
「とにかく、引きも媚びもせぬ! 最初から下に出るなど、愚の骨頂! 我々はゲルルフ様の代理である! 舐められるような真似をするわけにはいかん、このまま上から行くぞ!」
オルランドは、フランカとゾフィーへとそう言い放ち、大きく身を乗り出して村を睨む。
「しかし、さすがゲルルフ様だ。さすがにあの人の考え過ぎだと思っていたが、アルマとやらは、なるほど、確かに危険な相手らしい。だが、ゲルルフ様に目を付けられたのが運の尽きよ。我々《ヤミガラス》は甘くはないぞ。首を洗って待っているがいい、アルマ……!」
そのとき、オルランド達の乗る船から大きな音が鳴った。
設置されている砲台が動き出したのだ。
オルランドは蒼褪めた顔で振り返る。
「そ、操縦は何をやっている!」
「隊長さん、指示してたじゃないですか。到着したら、村外に適当に派手に一発かまして、威嚇してやれって」
「アレを前にして、実行する馬鹿がいるか! さすがにまずいだろう!」
「上から飛んでくのも、ゾフィーは充分馬鹿だと思いますけどね。止めるなら急いだ方が……」
爆音と共に発射された砲弾が、村の外に着弾した。
派手な音を立てて爆発を起こす。
壁の一部とゴーレムの一体が巻き込まれ、残骸と化していた。
「遅かったみたいですね」
あっさりと、他人事のように口にするゾフィー。
オルランドは再び村を睨む。
「だ、だが、これくらいせねば、アルマに脅しは掛けられんのもまた事実。あながち失敗とも言えん……うん?」
時計盤のついた巨大な建造物の壁が開き、中から綺麗に輝く、半透明の大きな突起物が展開された。
「なんだアレは……?」
「ふむ、魔石を切り出して加工したものみたいですね。でも、何のためにあんなものを? かなりの費用が掛かるはずですし、ただの飾りとはとても」
突起物の先端に、赤い光が集まっていく。
次の瞬間、突起物の先端から放たれた赤い光の塊が、オルランド達の天空艇へと飛来した。
光が放たれてから天空艇への着弾までに、オルランドは声を上げる間もなかった。
天空艇が大きく揺れ、帆柱の一本が派手にへし折れ、船体から炎が上がる。
オルランド達は何が起きたかもわからぬままに、天空艇と共に地上へと落下していった。
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