第68話

 デイダラボッチ討伐後、アルマは再び遺跡に冒険者達を呼び戻し、海轟金トリトンの採掘を再開した。

 デイダラボッチの暴走による崩落によって遺跡の一部が沈んだものの、まだ充分な海轟金トリトンが遺跡の中には眠っている。


 アルマは冒険者達に表層での採掘を進めてもらっている内に、ラメール遺跡の奥地へと向かっていた。

 無論、メイリーも同行している。


『どこへ向かっているのだ?』


「奥に、ラメールの宝物庫があるはずだ。あれだけ騒ぎになったし、一旦冒険者達だって陸地に戻ったんだ。どうせ、その内に都長の手が入る。そうなったら好きに捜索できなくなる。都長の調査兵より先に宝物庫だけでも確保して、隠し持っておかないとな」


 通常、ダンジョンに入って手に入れたアイテムは冒険者のものになる。

 ただ、今回は額が額なのだ。

 理由を付けて税を掛けられたり、特例で回収されることは覚悟しておくべきだ。

 余計な揉め事を起こさずに利益を確保するためには、重要なアイテムをかっさらって、その存在自体を隠してしまうのが手っ取り早かった。


『ちゃっかりしておるというべきか』


 クリスが溜め息を吐く。


「まあ、さすがに色々没収されても、四千万アバルは届くだろうがな。足りなかったら、キュロスにちょっと強めに頼めば、一千万アバルくらいなら貸してくれそうな雰囲気だったし。それに、払わなくていいものを払うのも馬鹿らしいからな」


『キュロスと都市の税収を何だと思っておるのだ』


「都長の干渉を振り切って遺跡を平地にできたら、元々全部俺のものになるはずだったんだ。宝物庫に関しても、手に入れて黙っているだけなら違法性はないはずだ。ダンジョンで手に入れたものを全て報告しなければならない義務はない」


『……もう何も言うまい』


 メイリーはアルマの暴論に一切口を挟まない。

 元々、マジクラでのアルマは、最低限の他プレイヤーへの配慮こそあったものの、基本的に暴君そのものだったのだ。

 都市やどこかに所属することはなかったし、仮にどこかの都市に降り立てば、怯えた住人が全員住居の中に隠れ、店を閉めるレベルであった。

 上位プレイヤーというだけで、現地NPCにとっては仮に機嫌を損ねれば都市丸ごと吹っ飛ばされかねないような相手であったため、無理もない。

 むしろメイリーからすれば、アルマが大人しく都市のルールに則っているのがちょっと意外、くらいの感覚であった。


『しかし……デイダラボッチ、恐ろしい相手であったな……。以前にも相手をしたことがあると口にしていたが、同じように海に沈めたのか?』


「いや、前は倒しきったぞ」


『む? 不死身ではなかったのか?』


 メイリーも怪訝な表情をしていた。


「……ボクもいなかったのに、勝ったの?」


「勝ったというか、まあ、あの時は俺が儀式を進めて、準備をしてから挑めたからな。戦いは事前準備が全てだからな」


 特にマジクラではそうであった。


『どうやったのだ?』


「ランクの高い鉱石で空間を狭くして、溶岩を流し込んでおいたんだ。復活と同時に天井に頭突っ込んで動けなくなって、そのまま溶岩でじっくりとな。不死身って話だったが、朝にやって夜に戻ったら死んでたよ。まあ、限界はあるわな」


『……我は聞かなかったことにしておくぞ』


 クリスは呆れたようにそう言った。

 メイリーも、目を細めてアルマを睨んでいる。


 バグ鎖にしろ溶岩攻めにしろ水攻めにしろ、マジクラ初期からいる魔物の大半は嵌め技の類に弱いのだ。

 マジクラ特有の自由度の高さが悪さをした結果であった。

 後期より現れた魔物の大半は、明らかにピンポイント対策としか思えないスキルを有していたりするものであるが。


 因みに、種族人間は崩落事故と落下死に弱い。

 よくプレイヤー戦やNPC戦において、建物ごと吹き飛ばしたり、崖を爆破して落下させる戦法が度々用いられた。

 それは結局最後まで改善されなかったため、プレイヤーの多くは人間不信となり、NPCはそのままカモとなった。

 アルマが《天空要塞ヴァルハラ》に引き籠りがちになったのも、都市に住んだり地上に城を築いたりすると、いつどのような罠に掛けられるかわかったものではないからである。

 同じ理由で機動要塞を拠点とするプレイヤーは多かった。


 奥地に辿り着くと、壊れた祭壇があった。

 恐らくはデイダラボッチが出現したポイントである。

 部屋の隅には《海轟金トリトンの収納箱》が並んでいた。


 アルマは似合わないスキップを踏みながら収納箱へと歩み寄り、蓋を開けて中を確認する。


「おお! 高レベルの《ルーンストーン》や黄金があるじゃないか! ミスリルだってあるぞ! これだこれ、この瞬間が一番楽しいんだ! この時が一番楽しい!」


 アルマは子供のような声を上げて燥ぐ。

 メイリーはその様子を、やや冷めた目で眺めていた。


「フフ、さすがに似非錬金術師ネクロスの拠点とは大違いだ。いや、これは都市で捌くには勿体ないな。村に持ち帰るには、クリス……じゃ力不足だから、何か乗り物が必要だ」


『さらっと我を下げるでない』


「外に下手に持ち出すのも危険だな。別のところの収納箱も一つの部屋に集めて、ルーン付与した鉱石で固めて、俺以外絶対に入れない場所を造っておこう。そこでしばらく隠して、隙を見て持ち出すか。見つけられること自体避けたいから、道中にちょっとした脅しの罠も必要になるな。ゴーレムで充分か?」


『ダンジョンを造ってどうする。完全に私物化するな』


 アルマはクリスの突っ込みを受け流し、《魔法袋》より錬金炉を取り出して設置する。


「とりあえず、ここの補強からだな」


『お、おい、冗談ではなく、本気でやるのか……?』


 クリスが恐る恐ると尋ねたとき、メイリーはどうでもよさそうに欠伸をしていた。


「クリスもそろそろ慣れたら?」


『我がおかしいのか……?』

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